幸せの形はひとつじゃないーー『逃げ恥』に通じる『デイジー・ラック』の多様性
今夜放送予定のドラマ10『デイジー・ラック』(NHK総合)が、クライマックスに向かって加速している。小学校時代の仲良し女子4人組“ひなぎく会”が、30代突入を目前に再会。恋に、仕事に、パートナーへの歩み寄りに……個性豊かな4人がときにぶつかり、ときに支え合いながら、それぞれの幸せを見つけ出す心温まるストーリーだ。
時代が多様性を描いた作品に追いついた
原作は、『逃げるは恥だが役に立つ』を描いた漫画家・海野つなみ。ドラマ化にあたって、自身のTwitterで「一度は打ち切りになった作品が、17年たってこうして日の目を浴びる日がこようとは……胸熱であります。続けて来てよかったです」とつぶやいたとおり、この作品は連載時に打ち切りになっている。
きっと時代が早かったのだろう。当時から、ファンの心を掴む作品ではあったが、まだまだ世間が多様性を受け入れるには助走期間が必要だったのではないか。人はもともと違う個性を持ち、だからこそ幸せも同じ形ではないということ。違うことを反射的に拒絶するのではなく、そういう形もあるのだと知ること。海野作品が発信し続けてきた多様性は、誰もが自分の物語の主人公だと、改めて気付かせてくれる力がある。
作品を通じて気付きを得た人が少しずつ増えていき、やがて世の中の“気分”になる。そして『逃げ恥』のヒットへと繋がった。『デイジー・ラック』は自分なりの幸せがあることが広まりつつある今に、「自分なりのペースで掴んでいけばいい」とさらなる勇気を与えてくれる作品だ。
「私には何もない」の焦り
恋人から「結婚はしたい。けど、お前とじゃない」と振られ、会社が突然倒産した楓(佐々木希)。30歳を目の前にして、恋愛も、キャリアも失い「私には何もない」と焦る。見渡せば、高級エステで働く薫(夏菜)も、フリーでバッグ職人をしているミチル(中川翔子)も、専業主婦のえみ(徳永えり)も、それぞれ“それなりの何か”を手に入れているように見える。
幸せの形はひとつじゃないのはわかる。だが、自分にはひとつもない。そんな焦りを抱いたことがある人は、少なくないはずだ。それでもポジティブな楓は好きなパンを仕事にしようと、履歴書を片手に無我夢中でパン屋に飛び込み、売り込んでいく。「29歳からパン職人なんてあきらめたほうがいい」「けっこういってるね」……年齢を重ねれば新しい挑戦は難しい。好きな道を進んでいる自由業のミチルも「若ければもっと身軽だったのかな」と、身の振り方を思案するシーンもあった。
人生のどん底を経験した楓は、さらにポジティブになった。パン屋で新しい恋を見つけ、努力が報われる喜びにも触れた。ミチルは貯金が底をつきそうになったとき、自分のことをちゃんと見ていてくれる人に気づいた。人生は何もないと思ったときこそ、身軽に動けるチャンスにもなるのかもしれない。