さらに物語以外に本作を楽しむポイントは、念入りに作り込まれた世界観である。大輔を含む、日本人キャストを起用したキャラクターが、本当にハワイにいることを観客に訴えかけなければならない。そこには小さなこだわりがたくさんつまっていた。大輔の着ている柄シャツは何パターンかがローテーションで使用されており、“1日”という日付を軸に経過を描く本作では大きなポイントとなる。毎日同じ衣装でもなく、全て違う衣装でもない大輔の姿には、本当に数日間会っているかのようにリアルな実態を感じた。

　また、瑠衣の病気のことをまとめてあるファイルは3穴バインダーであり、これはハワイを含むアメリカで使われることの多い規格である。日本では滅多に手に入らないが、ハワイでは現地のスーパーなどで安価で手に入れることのできるリアルな小道具。ムロ演じるウーラが身につける、葉っぱを編んでつくられた帽子もまたローカルなアイテムと言えよう。このように本作には様々なハワイのローカルさを演出するアイテムが登場する。衣装や小道具から世界を作り上げることで、全員が日本人キャストでありながらハワイを舞台とした作品がしっかり成立するのだ。

　“笑って泣ける”という言葉では足りないくらい、笑いの振り幅も泣きの振り幅も大きい本作。福田組がいかにお互いを信頼し、本作を作り上げているのかが伝わってきた。ハワイの絶景と作品の魅力を目の前にして、久しぶりに全ての感情を解放させたような気分になる映画だ。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■公開情報
『50回目のファーストキス』
全国公開中
主演：山田孝之、長澤まさみ、ムロツヨシ、勝矢、太賀、山崎紘菜、大和田伸也、佐藤二朗
脚本・監督：福田雄一
配給：ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c)2018 『50回目のファーストキス』製作委員会
公式サイト：50kiss.jp
Twitter公式アカウント：@50kissjp