中谷美紀が心に貼ったマスキングテープ 『あな家』が描く“許さなければならない側”の理不尽さ

『あな家』が描く理不尽さ

 そこまで相手の心を推し量れない秀明。家庭を選び、綾子に別れを告げて、それで元通りになるとでも思っていたのだろうか。旬のタケノコご飯を作る自分に「これが幸せか」などとウットリしたり、ソファではなくベッドで寝ることを許された途端に夫婦の営みに挑んでみたり……。真弓が娘・麗奈の前で必死に笑顔を取り繕っているのを、心から笑っていると思っているのだとしたら、本当に想像力が乏しい。もちろん、その乏しさゆえに綾子の誘惑に溺れてしまったのだろう。それも、妻にとっては「こんな夫と結婚した自分が悪い」と受け入れるしかない。相手の裏切りによって、妻の自尊心はすり減る一方。

 いつだって守りは、攻めるよりも難しい。それが、何をしでかすかわからない相手であれば、なおさらだ。綾子は真弓のテリトリーにどんどん侵入してくる。職場、旅行先、そして次回は家にまで……。かつて彼女が、太郎の母親が大切にしていた庭を乗っ取ったように、彼女は秀明との家を乗っ取りにきているのではないか。あのモデルルームでの食卓ごっこが、綾子にとって欲しくてたまらないものになってしまったのだろう。息子・慎吾が意味深につぶやいた「そういうのやめなよ」という言葉は、もしかしたら誰かの幸せを奪うことでしか満たされない綾子を見抜いているのかもしれない。人のものを欲しがる女のヤバさは、女だからこそセンサーが働くのだろうか。自分の家(ホーム)を平然とした顔で奪いにくるモンスターと真弓がどう戦っていくのか。理不尽にも頼りない秀明との共同戦線が始まる。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』
TBS系列にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:中谷美紀、玉木宏、ユースケ・サンタマリア、木村多江、駿河太郎、笛木優子、高橋メアリージュン、藤本敏史(FUJIWARA)、トリンドル玲奈
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫刊)
演出:平野俊一
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/anaie/

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