「監禁モノ」に新たな秀作登場! 『ベルリン・シンドローム』のリアルで緻密な心理描写

宇野維正の『ベルリン・シンドローム』評

 もう一つ、『ベルリン・シンドローム』において特筆すべき点は、タイトルにもなっている(原題も同じタイトル)、物語の舞台となるベルリンの街のリアルで活き活きとした描写だ。オーストラリアの田舎町ブリスベンからバックパックを背負ってやってきた旅行者=主人公の目に映る、国際都市ベルリンの日常の情景。滞在先のホテルで知り合った同世代のボヘミアン的な若者たちからどこからやって来たのか訊かれて、「Brisbane? Where the fuck is that?」などと笑われる主人公は、それに腹を立てることもなく、(一見)開放的なベルリンの街と人々に魅惑されていく。そして気がついた時には落ちていた、深い深い落とし穴。それは、田舎から都会に出てきたばかりの若者、特に女性にとっては、多かれ少なかれ、誰もが身に覚えのあるような感覚なのではないだろうか?

 本作『ベルリン・シンドローム』は、そんな「田舎から都会に出てきた女の子あるある」を優れた青春映画のように描きながらも、まるで真綿で首を締めるように、気がつけば「監禁モノ」ならではの絶望のどん底へと観客を叩き落としていく。作品を通してそこで一貫しているのは、登場人物たちのリアルで緻密な心理描写だ。突然やってきた「監禁モノ」ブームの時代にあって、ケイト・ショートランド監督は、他の優れた作品群に埋没することのない忘れがたい恐怖体験と高度な心理劇を、見事な手際で描いてみせた。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『ベルリン・シンドローム』
4月7日(土)より新宿武蔵野館、渋谷シネパレスほか全国ロードショー
出演:テリーサ・パーマー、マックス・リーメルト
脚本:ショーン・グラント
監督:ケイト・ショートランド
原作:『Berlin Syndrome 』メラニー・ジョーステン
配給:レスペ
(c)2016 Berlin Syndrome Holdings Pty Ltd, Screen Australia
公式サイト:berlin-syndrome.com

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