『アナと雪の女王/家族の思い出』はなぜ盛り上がりに欠けた? 長編第2作への期待

『アナ雪』短編なぜ盛り上がらない?

 日本で国内動員2000万人を超える、記録的な大ヒットを成し遂げ、社会現象と呼べる“アナ雪旋風”を巻き起こした、ディズニー映画『アナと雪の女王』。公開後、関連グッズや、キャラクターがプリントされた食品などが街に溢れ、劇中歌「レリゴー」こと「Let It Go」の流行で、上映中に観客が合唱しても良いという「シング・アロング上映」まで行われ、その狂騒ぶりも話題となった。

 そんな『アナ雪』が、ピクサー制作『リメンバー・ミー』同時上映の短編作品『アナと雪の女王/家族の思い出』として、またまた帰ってきた。実写版『シンデレラ』と同時上映されたスピンオフ『アナと雪の女王/エルサのサプライズ』以来、久しぶりにエルサやアナたちと会えるのだ。しかも短編作品としては、前回の8分を大幅に超え22分にまで拡大されるという、TVアニメーション1話分ほどの異例の長尺となった。このことからも、ディズニーが『アナと雪の女王』というブランドに絶対的な自信を持っていることがうかがえる。

 だが、先に上映が開始されていたアメリカでは、大変なことが起こっていた。『アナと雪の女王/家族の思い出』は、ディズニー/ピクサーの指示により、公開から約2週間で、『リメンバー・ミー』の上映からカットされることになったのだ。

 このショッキングな事態は、一体なぜ起こったのだろうか。ここでは本作『アナと雪の女王/家族の思い出』の内容に触れながら、その理由を考えていきたい。

 カットされる大きな要因となったのは、やはりその異例な尺の長さにあった。メインとなる『リメンバー・ミー』を観に来た観客たちの一部が、短編がなかなか終わらないことに戸惑い、「別のシアターに入場してしまったのではないか」と上映中に席を立ち、劇場スタッフに問い合わせるケースが頻発し、映画館がその対応に追われたという。さらに、『リメンバー・ミー』が始まる前に子どもの観客が疲れてしまうなどの声もあった。

 しかし、本作が内容的に充実していれば、ここまで思い切った措置にはならなかったのではとも思える。本作のアメリカ本国の評判を調べていくと、「上映中ずっと、これ、いつ終わるの?と思った」などの否定的な意見がSNSなどでかなり見られるのだ。映画の評価サイト「ロッテン・トマト」でも、 観客の人気の目安となる「オーディエンス・スコア」が、現在「35%」となっており、非常に低い値を示している(『リメンバー・ミー』は「95%」)。4年前のアナ雪ブームの熱気を考えれば、この状況は予想外である。

 本作は、スピンオフ『アナと雪の女王/エルサのサプライズ』同様に、第1作の後の物語を描いている。 北の国アレンデールの女王・エルサと、その妹アナは、幼い頃からの断絶した関係をようやく修復し、仲良くお城で暮らしていた。だが、楽しいはずのクリスマスの日、ある問題が持ち上がる。幼い頃に両親を亡くした2人は、王族としてクリスマスをどう祝えばいいのかを知らなかったのだ。エルサは、伝統を途絶えさせ、家族の思い出をアナに伝えられなかったのは自分の責任だと思い悩む。雪だるまのオラフは、そんな様子に心を痛め、アレンデール国の市民の家を回り、家々の伝統を2人に伝えようとする。

 本作の原題が、"Olaf's Frozen Adventure"(「オラフのフローズン・アドベンチャー」)である通り、実際に本作の内容は、オラフの冒険がメインとなっている。日本版ではそのタイトルが採用されてないことからも分かるように、本シリーズのファンの人気は、主にクイーンやプリンセスに集中しているため、雪だるまの冒険を中心に描いたほのぼのした内容では、あまり興味を惹くことができなかったと考えられる。

 北欧を舞台にしながら、トーベ・ヤンソンの『ムーミン』や、アストリッド・リンドグレーンの『やかまし村の子どもたち』のような、伝統に裏打ちされた深い内容や、自然と人間の関係や生活などの描写は希薄だ。アメリカのTV番組におけるクリスマスの特別番組のような雰囲気だと感じた観客もいる。

 私の個人的な評価も、それらの否定的意見と大きくは変わらない。20分を超える尺があれば、TVアニメ『ザ・シンプソンズ』や『ボージャック・ホースマン』の優れたエピソードのように、深い人間ドラマを描くことは可能なのだ。今回ディズニーは、『アナ雪』ブランドへの人気に寄りかかり過ぎて、長編ファンへのサービス以上のものを提供することができなかったように思える。

 そもそも、“アナ雪旋風”が起こった理由とは何だったのだろうか。「Let It Go」の楽曲を紹介し、音楽を前面に押し出したマーケティングが成功したという意見もあるが、肝心の作品自体に力がなければ、それも叶わなかっただろう。

 「Let It Go」は、王女として生まれ、人々から差別される魔法の力を隠し通さなければならなかった、エルサという一人の女性の心理が反映されている。いままでの呪縛を断ち切り、ストレスを放り出して、「もうどうでもいい、なるようになれ」と、現実から逃避する意味合いで、"Let It Go"という言葉が使用されている。それは物語の中でも、最終的に否定される考え方として扱われているネガティブなイメージである。しかし、この全てを放り出してしまいたいという感情こそ、多くの女性が潜在的に求めている願望なのではないか。

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