尾上松也が語る、歌舞伎俳優とアニメ声優の共通点 「アフレコは歌舞伎のセリフ回しとどこか似ている」

尾上松也が語る、歌舞伎俳優と声優の共通点

 「声優も歌舞伎も基本的にはオーバーリアクション」

ーー声だけで表現することに苦労はありましたか?

松也:映画やドラマのお芝居は、全身の動作や声で表現しますが、アフレコは声だけという限られた中で伝えなければならないので大変でした。今回声優をやらせていただいて気づいたことは、自分の中で大きめにイメージを膨らませておかないと、表現するのが難しいということです。特にアニメーションは僕らが普段演じているお芝居よりも、一つひとつの動作やリアクションがオーバーになっています。ですので、セリフを大袈裟かつ様々なバリエーションで表現することを強く意識しました。ただ、僕が普段出演している歌舞伎というジャンルのお芝居もまた基本的にはオーバーリアクションなんですよ。そういう点では僕はやりやすかったと言いますか、とてもやりがいを感じました。

ーージャン=ピエールに関して、どういうイメージを膨らませましたか?

松也:歌舞伎もアニメーションも映画もドラマも、根本的にはイメージの作り方は一緒で、まず僕は演じる役の性根をある程度自分なりに考えておきます。ジャンルによって、自分が作ったイメージを、どのくらい出して、どう表現するかという違いだけかなと思います。『プリキュアアラモード』に関しては、自分の中の大まかなイメージを、現場で再構築していく感じでした。どの現場でも同じですが、やはり監督が思い描いているものが最も重要ですので、自分の中だけでキャラクター像を完結することはできません。ジャン=ピエールをどう表現するかは、監督と話し合って一緒に考えていきました。また、現場で実際のアニメーションの動きを見ることにより、当初イメージしていたものとは変わってくる部分もあったので、イメージ自体は大きめに膨らませておいたのですが、かっちり型にはめ込むようなことはしなかったです。

ーー先ほど、声優と歌舞伎の表現は似ていると言っていましたが、ほかに歌舞伎で学んだことをアフレコに生かしたことはありますか?

松也:たとえば、ドラマや映画だと自然な演技が求められますが、歌舞伎の場合はセリフに抑揚をつける必要があります。歌舞伎では、自分が何を伝えたいかということをハッキリと浮き彫りにしていく技術があって、それを先輩方から教えていただいてきました。その抑揚のつけ方や技術、意識というのはアニメーションのセリフの中でも活かせた気がしますね。

ーー逆に、歌舞伎、映画やドラマ、アニメーションを演じる上で、違いは感じましたか?

松也:僕は、あまり大きな差はないと感じました。お芝居をする時の標準をどこに合わせるのかという違いだけだと思います。たとえば、ジャン=ピエール役で歌舞伎に出た時の演じ方と、ドラマでのジャン=ピエール役、ジャン=ピエールというキャラクターに声を吹き込むのでは、確実に表現の仕方が変わってきます。ただ声優で言うのであれば、声だけで感情の機微や全身の動きが、なるべく明確に見えるようにすることを意識しました。同じことをドラマでしてしまったら、多分とても臭い芝居になってしまうんじゃないかなと思います。

ーー松也さんの中では、アフレコはドラマや映画よりも歌舞伎に近いイメージなんですね。

松也:そうですね。アフレコは歌舞伎のセリフ回しと、どこか似ている部分があります。

ーー『プリキュアアラモード』の台本は状況や設定などが細かく書いてあって、ドラマや映画のものとは少し異なる印象を受けました。台本という点では、歌舞伎との違いはありますか?

松也:ほとんど同じですよ。歌舞伎にもセリフの間に、“ト書き”があります。ここはどういう状況や格好で、どちら側から出てくるなどという細かい設定が記してあるんです。あえて違うところをあげるとしたら、アニメーションの台本には上の方にセリフの秒数が書いてあります。これは歌舞伎やドラマ、映画の台本には書いていないので、アニメーション特有のものです。

ーーアフレコは元々ある映像と喋る長さを合わせなきゃいけないため、時間はとても重要ですよね。

松也:そうですね。アフレコをする際にはどのタイミングで言うのか、上に書いてある秒数で判断することもあります。今回の場合は多少時間を越えてしまっても、調整していただくことが出来ました。ほかの吹き替えの現場では、時間通りぴったりに合わせないといけないことがほとんどだと思うので、台本に書いてある秒数はキモの部分ですね。これは歌舞伎やドラマなどのお芝居ではあまり経験したことがなかったので、最初は焦りましたね。中には、この秒数だと合わないと思う部分もあるんですよ。その限られた時間の中で、感情を込めないとならないので、試行錯誤しながら何回もやらないと合わせられないセリフもありました。

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