オダギリジョー×阪本順治監督が語る『エルネスト』に込めた情熱 「生き様を感じ取って欲しい」

阪本順治×オダギリジョーが語る

 阪本「現在の日本映画界に一石を投じることができれば」

 ——フレディ前村が初めて民兵として参加した海岸警備のシーンや、終盤のボリビア戦線でのシーンなど、戦場の描写もこれまでの日本映画では描かれることのなかったスケール感です。

阪本:正直、どこまで“リアル”にできたかは分かりません。キューバ危機の際、フレディ前村たちは国からの強制ではなく、自らの意志を持って民兵として参加しました。海岸で地対空砲を構えるシーンも、撮りながら実際の彼らは一体何を思っていたんだろう、とずっと考えていました。それは町中のシーンを撮っていても、かつてあった砲台の名残なんかを見ても、“いま未知の体験をしている”との感覚がありました。革命を志した若者たちの残り香に触れ、用意していた脚本が崩れていった面もあったのですが、それは楽しくもありました。

——彼らの必死さをみると自分がいかに平和に暮らすことができているのかを痛感します。

オダギリ:時代も環境も違いますからね。無邪気に生きているな、と僕もよく思います。でも、それが先人達が築いてくれた現代の幸せだと思うので、そこと比べるのも難しい話だと思います。ただ、今の日本の若者はぬくぬくと育っているから、あの時代に共感できないかというと、そういうわけではない気がします。政治に興味を持って、デモに参加したりしている若者も沢山いますからね。そういう意味では、正しいものと正しくないものに対して、しっかり向き合って戦う意思は、いつの時代にもあって当たり前のこと。この映画が何かを考えるきっかけになればうれしいです。

阪本:学生運動を経験したことのある年齢層の方たちは、この映画に郷愁を感じるかもしれないけど、若い世代の方にとっては希望の物語にもなると思います。本作の取材中、キューバやボリビアの革命博物館、チェのお墓など、どこに行っても必ず日本人の若者がいたんです。チェのTシャツを着ていても、その人が誰なのか分からない若者もいれば、そうやって足跡を辿っている若者もいる。チェは決して過去の英雄ではなく、今なお生きている。それは“悲劇”の匂いがしないから。チェのそういった生き様、それに感化されたフレディ前村ウルタード、ふたりの“エルネスト”の生き様を感じ取ってもらいたいです。

——現在の日本映画界では、漫画やヒット小説などを原作とした映画が非常に増えています。そんな状況にあって、本作は異質な映画といえるかもしれません。

阪本:映画は“商品”でもあるという事実は昔から変わりません。確実に売れるものから映画化されていくのは当たり前です。でも、僕が若い頃は、作家性の強いものからオリジナリティの強いものまでいろんな選択肢がもっとあったように思います。つまり、観たい映画を選べたんです。今は、ちょっと時間が空いてシネコンに行っても、似たような作品が多く、今日は観なくていいかと思ってしまうことが多い。もちろん、単館系映画館に足を運べば、尖った作品はあります。でも、もっと多種多様に映画を選べた時代と比べると、間口は広いけど、“奥行き”のなさを感じます。それはこれからもしばらく続くのかなと。作り手としてそう感じる以上、現在の日本映画界に一石を投じることができればと考えています。本作がどういう結果をもたらすかはわかりませんが、こういった映画を望んでくれる方もたくさんいるはずだと思いたいです。

『エルネスト』本予告映像

(取材・文=石井達也)

■公開情報
『エルネスト』
TOHOシネマズ 新宿ほか全国公開中
脚本・監督:阪本順治
出演:オダギリジョー、永山絢斗、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、アレクシス・ディアス・デ・ビジェガス
配給:キノフィルムズ、木下グループ
製作:2017年/日本・キューバ合作/スペイン語・日本語/DCP/ビスタサイズ/124分
(c)2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS.
公式サイト:http://www.ernesto.jp/

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