どの世代にも愛される、ロードムービー史における新たな傑作 『50年後のボクたちは』の瑞々しさ

『50年後のボクたちは』の瑞々しさ

 14歳の少年とイニシエーションを描いた映画作品のうち、本作と対極に位置する作品として想起するのは、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『孤独な天使たち』だ。同じく学校と家庭で疎外感に苦しむ14歳の主人公ロレンツォは本作のマイクであり、チックにあたるのは異母姉のオリヴィアである。少年たちはいっときの逃避行を終えたのち、大人への道を歩み始めるのだが、マイクとチックが外へ外へと向かうのに対し、ロレンツォとオリヴィアは家の狭い地下室に閉じこもる。そして、マイクはチックをはじめとするまったくの他者と出会うことを通して、ロレンツォは馴染みのある親族と再び向かい合うことを通して、それぞれ自分自身と世界について知り始める。そんな対照的な2作品には、ある共通点が認められる。

 原作では逃避行を終えたその後のチック、あるいはオリヴィアの行く先が描かれているが、どちらも映画では改変されている。救世主的存在である彼らのその後をあえて描かないことで、いつまでもかけがえない時間の中の輝かしい姿のまま、少年たちと私たちの記憶に彼らの姿は刻まれる。行方知らずの救世主は、だからこそ永遠のヒーローになり得る。

 そして、『孤独な天使たち』の劇中で流れるデヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」が謳うのは、まさしく宇宙空間の物語である。青春時代におそらくは誰もが一度は対峙したこのある宇宙は、映画の世界においても閉ざされた世界に倦む孤独な少年少女たちを結びつけるかのように存在する。

 本作が描くのは、子どもたちにとってはまだ見ぬ冒険へ踏み出す勇気を与えてくれる物語であり、大人たちにとっては14歳の頃の自分と邂逅するノスタルジーの旅へ誘ってくれる物語である。どの世代にも愛されるであろう本作は、ロードムービー史における傑作をまたひとつ更新した。

 少年たちは高台で50年後に再会する約束をし合う。ひとたび大人になれば、もう無邪気に50年後に約束を作ったりはできない。幼き世代にだけ許された特権を持つ彼らのことが、どこまでも眩しい。

■児玉美月
現在、大学院修士課程で主にジェンダー映画を研究中。
好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『50年後のボクたちは』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかにて公開中
監督・共同脚本:ファティ・アキン
脚本:ラース・フーブリヒ
原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ(「14歳、ぼくらの疾走」小峰書店)
出演:トリスタン・ゲーベル、アナンド・バトビレグ・チョローンバーダル
配給:ビターズ・エンド
2016年/ドイツ/93分/ビスタ
(c)2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH
公式サイト:www.bitters.co.jp/50nengo/

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