“過保護”は果たして悪なのか? 高畑充希主演ドラマ『過保護のカホコ』が描いた自主性の重要さ

『過保護のカホコ』が描いた自主性の重要さ

 本作のナレーションも務める、カホコの父親は、密かに家族・親戚を動物に例えているが、そのなかで最も巨大な“ゾウ”だとされているのが、三田佳子が演じる、カホコから“ばぁば”と呼ばれる母方の祖母・初代(はつよ)である。彼女は三人の娘を育て、家や家族たちを裏から支える、皆の精神的支柱となっている。

 三田佳子といえば、東映のスターであり、大河ドラマやCMでも活躍し、数え切れないほどの賞を獲得している、日本を代表する「大女優」の一人だ。なかでも強い印象を残すのは、『極道の妻たち 三代目姐』で演じた、日本最大の暴力団組長の妻の役だ。ヤクザは擬似的な家族関係を作り結束するため、彼女は「一万五千人の母親」というとんでもない役として登場し、「あんたも極道の妻(おんな)やったら、腹くくって物を言いや!」とすごむなど、それを引き受ける貫禄を見せていた。

 家を勘当されてまで、西岡徳馬が演じる“じぃじ”と結婚したという初代(はつよ)は、まさにそこから家族を作りスタートさせる「初代(しょだい)」として、家や家族を守り続けている。自分の体が病魔に蝕まれ長くないことを自覚すると、彼女はその役割を任せられるのはカホコしかいないと思うようになる。そして、「二代目」カホコに重責を受け渡す姿が、三田佳子というレジェンドのイメージによって、複数の意味合いを持たされた意味深い光景に見えるのだ。

 初代がカホコを二代目に襲名させるというのは、家族の誰かが困っているときに助け、奮闘するカホコの姿を見ていたからだ。カホコはたっぷりと愛情をかけられたからこそ、家族や他人にも愛情をかけようとするような優しい人間に育ったといえる。それが本作で描かれた“過保護力”なのだろう。

 本作は『女王の教室』、『家政婦のミタ』、『純と愛』など、刺激的な脚本を手がけてきた遊川和彦(ゆかわ かずひこ)の脚本作品でもある。生徒を追い詰め給食を与えなかったりする鬼教師や、求めに応じて殺人すら遂行しようとする家政婦など、これらの作品では、突拍子もないキャラクターを設定することで、それを逆に絶望的な現実社会に対抗するための突破口として描いていた。『過保護のカホコ』も、そのような極端なキャラクターの系譜に連なる存在だろう。

 そして今回も、開業資金の持ち逃げ、万引き行為への依存、アルコール依存症、覚せい剤問題など、現実社会のシリアスで絶望的な問題をとり上げ、一見幸せに見える家族が、内部で崩壊している様子を描いている。遊川和彦作品に共通するのは、このような厳しい現実であり、そのなかで自分らしさを失わず生きようという自主性の重要さである。カホコの家族は、カホコの奮闘に助けられ、踏み出せなかった一歩を踏み出し、それぞれが自分らしい生き方に目覚めていく。

 たしかに現実は厳しく冷たい。過保護の真逆の思想である「体罰」など、現在では法律違反となるスパルタ的教育が依然として根強く支持されている。その背景にあるのは、「迷惑をかけること」、「人と違うことをすること」が異常なまでに忌避され、また責め立てられるような日本の社会の状況である。そこに暮らしている者としては、そんな現実だったら、カホコやカホコの両親のように、人に過保護に接することも悪くないんじゃないか、いや、過保護くらいの社会がいいんじゃないかとすら思えてくるのである。

※西岡徳馬の徳の字は旧字体が正式表記

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■放送情報
『過保護のカホコ』
日本テレビ系、水曜22:00〜
出演:高畑充希、黒木瞳、竹内涼真、佐藤二朗、中島ひろ子、梅沢昌代、濱田マリ、夙川アトム、西尾まり、久保田紗友、三田佳子、西岡徳馬、平泉成、時任三郎
脚本:遊川和彦
音楽:平井真美子
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:大平太、田上リサ
演出:南雲聖一、日暮謙、伊藤彰記、明石広人
制作協力:5年D組
(c)日本テレビ
公式サイト:http://www.ntv.co.jp/kahogo-kahoko/

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