湊かなえ×菊地健雄が語る『望郷』への想い 湊「一筋の光が見えるようなラストを書きたかった」

 菊地健雄監督の最新作『望郷』が現在公開中だ。本作は、湊かなえ原作のベストセラーを、貫地谷しほりと大東駿介W主演で実写化したヒューマンミステリー。ある島を舞台に、古いしきたりを重んじる家庭に育ち、故郷に縛られた生活を送る夢都子と、本土から転任のため9年ぶりに故郷に戻った航、ふたつの親子の過去と未来をつなぐ模様を描く。

 リアルサウンド映画部では、原作者の湊かなえと監督を務めた菊地健雄にインタビューを行い、製作の経緯や、原作との違い、どんな想いを込めて手がけたのかなど、じっくりと語り合ってもらった。

 菊地健雄「最も議論した部分が、どうやったら一つの物語にできるのか」

菊地健雄

――今回湊さんの小説『望郷』から「夢の国」と「光の航路」の二編を実写映画化していますが、その中に原作の一編「石の十字架」の要素も入っていますよね。

菊地健雄(以下、菊地):元々、湊先生の原作では六編が収録された連作短編集なのですが、舞台が“白綱島”ということ以外はそれぞれに繋がりがなく、それぞれが独立した作品という印象でした。その中の二編を使って一本の映画を作る際に、僕らの中で最も議論した部分が、どうやったら一つの物語にできるのかということだったんです。脚本家、プロデューサーと議論していく中で、まず早い段階で、主人公の二人が、かつて同じ学校に通っていた同級生だったらどうだろうというアイデアが出ました。ただ、それだけだと漠然としすぎているので、二人に共通するエピソードを何か作れないかと。そこで思いついたのが、もう一編の「石の十字架」の中に入っている、“石の観音像に掘られた十字架”というエピソードです。原作を拝読した際に、白綱島のモデルは湊先生のご出身、因島なんじゃないかと感じたんですね。そこで、因島を調べたら周囲を見渡せる山の上に観音像が並んでいる場所が実際にあることを知ったんです。その風景がまた、写真で見ただけでもすごく趣深くて映画的だなと。この風景がラストシーンにきたら、作品を大きく包み込んでくれるんじゃないかと思い、「石の十字架」で二つのエピソードを繋ぎ合わせました。

湊かなえ

――湊さんは、そんな本作を鑑賞してみていかがでしたか?

湊かなえ(以下、湊):そうですね、短編集を書いたときにはリンクしていなかった世界が、こんな風に繋がることができるんだな、と驚きました。ああ、そうか。こんな風にすれ違っていたり、一緒に学校に通っていたりしたかもしれないなって。違う生き方をしていても、みんな十字架を探したことがあるという、その島の子特有の共通認識があるのは深い繋がりを感じますよね。また、因島で撮影されているので、ほとんど知っている風景ばかりが映し出されていたんですが、改めて本当にいい場所なんだなと実感できるくらい、すごく綺麗に撮っていただいています。

――湊さんの原作では「夢の国」の軸となるドリームランドは、東京にあるディズニーランドのような遊園地です。本作では、本土にある閉鎖間近な寂れた遊園地に変更されていましたね。

菊地:そうですね。湊先生がご執筆された原作と最も大きく変えた部分が、この遊園地“ドリームランド”です。これも、「石の十字架」のほかに二編を繋げる何かを作りたいという考えで変更しました。ドリームランドはまだ失われていないですが閉園間際ということで、この先失われていく風景。一方、「光の航路」で出てくる最後の進水式の方はすでに失われしまった風景です。そういう失われゆくものが、ある種引っかかりになると言いますか、その風景に幼い頃から想いを積み重ねてきた主人公たちだからこその葛藤だったり、悩みだったりがより繊細に描けるのかな、という思いがあってのアイデアだったのですが……。いかがだったでしょうか? これは僕も初めて湊先生にお伺いするので、ドキドキします(笑)。

湊:撮影した遊園地は、みろくの里ですよね。

菊地:ええ、そうです。

湊:みろくの里ができたのが、私が高校一年生のときだったので、オープンしたての頃に行ったことがあったんです。それっきりだったので、今のとても古びた姿を目にして、一気に年月を感じましたね。ここもまた実際に思い入れのある場所なので、胸がきゅんと切なくなると言いますか、一種の寂しさのようなものが込み上げてきました。また、本土というこんなにも近い場所なのに、みろくの里が一つの憧れの場所であり、閉園前に間に合った、みんなでやっと来れたっていうのがすごく感慨深かったですね。私自身の思い出とも重なり、原作では描かれていない部分の『望郷』の世界を出していただけた気がします。

菊地:そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます。

――では、湊さんが一番印象に残っているシーンはどこですか?

湊:進水式ですね。自分が見た風景をみんなに知って欲しいという思いと、純粋に画で見たいという気持ちがあったので。進水式をあんなに丁寧に撮っていただけたことに感動しました。また、最後の白滝山の頂上から島を見下ろすシーンも印象に残っています。瀬戸内海にぽこぽこ島が浮いている画は、あの辺りでしか見られない景色なんですよ。特に冬場は日照時間の関係で、あの海の色が出るのは1日のうちの何時間もないんです。それを見させていただけて、改めてここが故郷でよかったなあと感じました。

――進水式は、実際に見たことがあったのですか?

湊:最後の進水式が中学一年生の時でした。父親が造船会社で働いていたので、家族で行きましたね。

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