『過保護のカホコ』の語り手はなぜ時任三郎? 視聴者にぶつけられていた“父親の叫び”

 『過保護のカホコ』(日本テレビ系)には、一つ変わった点がある。それは物語が、主人公である根本加穂子(高畑充希)の父、根本正高(時任三郎)の主観によるナレーションをベースに進行していくということだ。

 加穂子は母親、根本泉(黒木瞳)の過保護の元でぬくぬくと育ってきた。言わば、根本家という王国で育てられた、「まだ大人になりきれていない尻尾の生えた可愛いカエル」。正高の心情と共に語られる、動物に例えた表現方法もユニークな演出である。ストーリーも第4話まで進み、加穂子が麦野初(竹内涼真)と出会うことで、自立した大人へと成長していくドラマだと思っていた。しかし、第4話のラストで物語は驚きの展開を見せる。

 「ここは俺の家だ!」「うるさい!」。正高が加穂子と泉に向かって声を張り上げるのだ。言ってしまえば、2人にとって正高は「都合のいい時にだけ頼られるスポンサー」だった。加穂子は麦野に会うための洋服を正高にねだり、それ以外は母親にべったり。家のグラスのひとつも泉の許可を得ないと使えない。明日の夕飯も前の日に聞かないと作ってもらえない。2人の板挟みにあい、こき使われる一方の正高は限界に達していた。

 口だけの妹、教子(濱田マリ)、寝てばかりで「明日、明日」が口癖の父親、正興(平泉成)、息子頼りの母親、多枝(梅沢昌代)。正高は実家にも嫌気が差していた。感情が爆発するのも無理はない。常に気持ちをぶつけていたのは、このドラマを見ている視聴者。言わば、私たちが、正高のことを一番分かってあげられる存在でもある。

 劇中では、正高の主観のもと、加穂子を取り巻く登場人物を“SNOW風”(顔認証するスタンプでユニークな写真・動画が作れる加工アプリ)のCGで動物へと例える演出がされるが、正高本人が変身する動物は、百獣の王ライオンだ。つまり、家族の中で自分が一番上。……果たして、本当にそうだろうか? このドラマでは、もう一つ多用される演出方法がある。正高が泉と加穂子に父親として意見をバシッと言い、家庭が丸く収まる……と思いきやそれは正高の妄想だったというモノローグ。現実は、そう簡単にはいかず、2人に相手にされないまま時間が過ぎていくというものだ。

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