市川由衣のラブシーンはなぜ心抉られる? “無垢な少女”からの成長を振り返る

 そんな“無垢な少女”から“大人の女”になり、“一児の母”へと役柄も成長して来た市川だが、先述した通り、どちらの役も“一方通行の愛”にも関わらず、身を委ねてしまう。愛されてないと気付きながらも、洋にすがりついて離れなかった恵美子と、相手を愛していないが、お金のため、そして大切なものを守るために身体を売り続ける冴子。どちらも、行為自体に意味はない。身を削り、虚しいだけだとわかっていた。身体を委ねている最中の彼女たちは、どちらも痛々しく映る。欲望と快楽の中でどこか、表情が泣き叫んでいるように歪み、目に光を宿していないのだ。だが、彼女は、役としても女優としても決して「負けない」。その瞬間こそ、市川由衣という女優の強さがむき出しになり、艶めく。

 市川のラブシーンは見るものの脳裏に焼き付いて離れない。どんなに傷つき、痛めつけられても、立ち上がる姿に心を抉られる。それは、市川が演じているのではなく、彼女たちと一緒に自らの血肉を削って、作品の中で生きているからだろう。

(文=戸塚安友奈)

■公開情報
『アリーキャット』
全国公開中
出演:窪塚洋介、降谷建志、市川由衣、品川祐、柳英里紗、川瀬陽太、森岡豊、馬場良馬、岡本拓真、森本のぶ、三浦誠己、高川裕也、火野正平
監督:榊英雄
脚本:清水匡
音楽:榊いずみ
配給:アークエンタテインメント
(c)2017「アリーキャット」製作委員会
公式サイト:alleycat-movie.com

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