満島ひかりは「俳優をやるために生まれてきた人」ーー『海辺の生と死』初日舞台あいさつレポ
7月29日、テアトル新宿で『海辺の生と死』の初日舞台挨拶が行われ、主演の満島ひかりをはじめ、共演の永山絢斗、井之脇海、川瀬陽太、津嘉山正種と、越川道夫監督が登壇。また、満島が挑戦している島唄の歌唱指導をした朝崎郁恵がスペシャルゲストとして登場し、奄美島唄をアカペラで披露した。
本作は、「死の棘」などを残した小説家・島尾敏雄と、その妻で自身も小説家の島尾ミホの「海辺の生と死」をベースに、奄美大島と、奄美群島内の加計呂麻島でロケーションを行い映画化した、太平洋戦争末期が舞台の愛の物語。
島尾ミホをモデルとする教師の大平トエに扮した満島は、まず先日の島での上映を振り返り、「この5人の俳優以外は島の人たちが出演してくれた映画なんですけど、子どもたちが来てくれて。映画の撮影はどうでしたか?と聞くと『映画の撮影はもう勘弁です。眠れないから』って答えている子とか、『僕は案外俳優としてやっていけるんじゃないかと思った』って(笑)。すごく可愛かったです」と温かなエピソードを語った。
トエの恋人で島尾敏雄がモデルの朔中尉を演じた永山は「浜辺でトエとの大事なシーンがあって、スタッフさんが視界に入る機材とかを全部どけてくださったりして、環境を整えてくださった。どの現場もそうしてほしい」と本音を漏らすと、会場からも登壇者からも笑いが。
朔中尉の部下、大坪役の井之脇は「僕が現場に行ったときには、もうみんなトエ先生のことが大好きという状態でした。僕がトエ先生に近づくと、本番中でも蹴ってきたりするんです」と明かすと、隣の満島も声をあげて笑いだし、「海くん、蹴られてましたね」と受けていた。
また島の人たちと打ち解けることのない日本軍兵士を演じた川瀬は「奄美の方々がいることによって、この人たちとは相いれない生き物であるということを含め、役に入り込みやすかった」と演じた役として、ほかの役者とは違う視点ながら、島の方々からの影響は大きかったと話した。
トエの父親役を演じた津嘉山は沖縄生まれ。終戦当時は1歳だったそうで、母親が背中を壕の外にさらして自分を抱えて守り、生き抜いてきたという年長ならではの話を伝え、会場中が深く聞き入る場面も。そして沖縄育ちの満島を「俳優というのは、努力してやれる人と、俳優をやるために生まれてきた人がいると思うんです。満島さんには、俳優をやるために生まれてきた人だというオーラを感じました」と称賛。会場からも拍手が沸き起こっていた。
さらにスペシャルゲストとして、奄美島唄の第一人者である朝崎が客席から花束を抱えて登場。満島は「えー、私が受け取るの?」と戸惑いながら「ありがとうございます」と感謝を述べ、続けて朝崎がアカペラで島唄を披露すると、満島は目を閉じ、思いを全身で感じているようだった。
そして監督が「これはトエさんの映画ですから、つまり島の生活の映画ですし、島の映画なんですね。それが島の人間ではない自分でどこまで撮れるのか、どこまで場所を裏切らないで撮れるのかというのが僕にとっては一番大きかった」と真摯に挨拶。
最後に満島が、「島尾ミホさんは愛を貫いた人だと思っています。人類愛みたいなものも含めて、愛に生きた人。映画のなかでどうにかそういうのが映らないかなと思ってやっていました」と役への思いを込め、「自分たちの土地に住む精霊や神様に自分たちの生活が循環されていた時代のお話を、今の時代に撮れるのかなという怖さと、それが映せなきゃ意味がないという気持ちで作っていました。みなさんの大切なところに触れるような場面がひとつでもあればいいなと思っています」と言葉を送った。
(取材・文=望月ふみ)
■公開情報
『海辺の生と死』
テアトル新宿ほか全国順次公開中
出演:満島ひかり、永山絢斗、井之脇海、川瀬陽太、津嘉山正種
脚本・監督:越川道夫
原作:島尾ミホ「海辺の生と死」(第15回田村俊子賞受賞・中公文庫刊)島尾敏雄「島の果て」ほかより
脚本監修:梯 久美子
参考文献:『狂うひと―「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社刊)
歌唱指導:朝崎郁恵
企画・製作:畠中鈴子
製作:株式会社ユマニテ
制作:スローラーナー
配給:フルモテルモ、スターサンズ
2017年/日本/155分/DCP/5.1ch/16:9/カラー
(c)2017 島尾ミホ / 島尾敏雄 / 株式会社ユマニテ
公式サイト:www.umibenoseitoshi.net