あふれ出るアニメ本来の魔法の力ーー湯浅政明監督『夜明け告げるルーのうた』の真価を探る

 本作に登場する人魚は、海の水を自在にコントロールして、いろいろなかたちを作ったり、空に飛ばしたりすることができる。そのような魔法の力を与えられた水は、ありえないほどポップなライトグリーンの色に光っている。海の水がこんな不思議な色をしているのを、そういえばどこかで見たなと思っていたのだが、東映動画の傑作アニメ『どうぶつ宝島』で描かれた、外洋の印象的な海の色に近いことに思い至った。

 そう考えると、本作のオープニングは『となりのトトロ』にそっくりだし、ルーのポップな色彩は『うる星やつら』のようでもあり、ルーと少年がブランコに乗るシーンは、『アルプスの少女ハイジ』のオープニングを連想させ、ルーの父の、虚ろな目でニッと笑う表情は、『パンダコパンダ』のパパンダそのものだし、ダンスシーンではディズニーなどの、アメリカで一時期流行した表現を取り入れつつ、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』らしきシーンもあったり、何よりも、「好き! 好き! 好き!」とためらいなく叫ぶ人魚ルーの活躍を描く本作は、「ポニョ、そうすけ好き!」でおなじみの、宮崎駿作品『崖の上のポニョ』と、キャラクターやストーリーの設定を含めて、いろいろな点でそっくりなのである。

 ここで挙げた作品全てを、湯浅政明監督が実際に意識しているのかは分からないが、少なくとも複数の名作アニメーションの要素を集めて本作が作られていることは確かだろう。このように、あたかもカヴァー・アルバムのような手法を使っているというのは、ある意味でアニメーション史の総括をしているともいえる。それは、高畑、宮崎アニメなどに代表されるアニメーション文化の美点を受け継いでいくという宣言でもあるのではないか。そして、その魅力の始原を振り返ることで、本作にアニメ本来の魔法の力を取り戻そうとしているようにも感じるのである。

 本作を見ていて驚いたのは、絵の力がとにかく圧倒的だということだ。湯浅監督が得意な、線が有機的に動いていく幻惑的なスペクタクル場面はもちろんなのだが、それだけでなく、地味な会話シーンなども異常に面白いのだ。キャラクターは、ときに「漫画的」なまでにカリカチュアライズされ、表情や姿勢の面白さなどが、何やら面白いことになっているのである。心を閉ざしていたはずのカイが、突然舌を出しながらイッちゃってる顔で音楽にノリ出すのは代表的な箇所である。おそらく本作は、コマ送りで眺めても面白おかしいはずである。既存の表現を工夫もなく利用して事務的な作業に終始するアニメ作品もあるなかで、本作は絵が生きているのである。これはアニメーターが「面白い絵を描いてやる」という不断の意志と、楽しみながら描くこと無くしては、絶対に達成し得ない仕事である。宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』には、「愉しきかな 血湧き 肉踊る 漫画映画」というキャッチコピーが付けられていたが、まさに本作にもふさわしい言葉である。

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