ジャンルを超えた傑作! イタリア人から観た『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』の魅力
こんなスーパーヒーロー映画は今までなかった!
スーパーヒーロー映画では、ヒーローだけではなく、ヒロインと敵も欠かせません。『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』が傑作だといえるのは、まさにこの3人の人物、そしてその役を演じた女優・俳優たちのおかげなのではないかと思います。
まずは主人公のエンツォ(クラウディオ・サンタマリア)。エンツォは子どものときからトル・ベッラ・モナカ地区に住んでおり、「俺には友達なんていない」という口癖からもわかるように、あまり“人間的”な人物ではありません。それゆえに、超人的なパワーを手に入れた彼がそのパワーを私利私欲のために使おうとして、自分も関わっていた麻薬事件で殺害されたセルジョの娘アレッシア(イレニア・パストレッリ)に対しても、同情を示しません。しかし、本作品のヒロインであるアレッシアこそが、エンツォの人生を変え、彼をスーパーヒーローにするのです。
日本のアニメ『鋼鉄ジーグ』に熱中のアレッシアは、子どものとき受けた性暴力のため精神的な問題を抱えており、『鋼鉄ジーグ』を通じて世界を見ているように描かれています。そのため、彼女の目には超人的なパワーを持っているエンツォが、『鋼鉄ジーグ』の主人公・司馬宙のように映っており、彼が世界の平和を脅かしている邪魔大王国と戦う使命を持っていると考えるのです。
ところが、エンツォは周りの人に対して無関心で、正義のために戦うなんてまっぴらです。というのは、少年時代の友達を麻薬事件などで失っていた彼は、心を閉ざし、人間関係を拒否しているからです。そのため、アレッシアのこともただの邪魔者だとしか思っておらず、彼女を援護寮らしき施設に連れて行きます。
しかし、エンツォはそこから逃げたアレッシアと住み始めることになり、彼女と恋に落ち、彼女を守ることが彼の使命となっていきます。そして、彼女の希望に応え、人類を救うために超人パワーを使うことになるほど、映画を通じてエンツォの人物像が変わっていくのです。つまり、一切感情をもたない“非人間”から、お金や恋人などの私利私欲のために戦う超人、そして世界の平和のために全力を尽くすスーパーヒーローまで変身するのです。
また、アレッシアの人物にも大きな変化が訪れます。性暴力のトラウマを抱いて男性との接触を怖がっていた彼女は、エンツォの過去を知り、彼の“本当の顔”を見ることで自分の恐怖を乗り越えるようになります。つまり、エンツォもアレッシアも過去の檻から逃げることで、本当のヒーローとヒロインになれるのです。トル・ベッラ・モナカ地区の汚い風景ではなく、ローマの象徴であるコロッセオからエンツォが街を見守るように描かれているラストシーンも、郊外における過去からの解放を意味しています。
では、このようなヒーローは誰と戦わないといけないのでしょうか? エンツォの敵はジンガロ(ルカ・マリネッリ)と呼ばれている不気味な人物です。闇の組織のリーダーであるジンガロは、若い頃にイタリアの有名なテレビ番組に出演し、芸能人になる夢をまだ諦めておらず、そのためには手段は選びません。たとえ、注目を集めるために爆弾でたくさんの人を殺すことが必要だとしても。ジンガロは死にかけたところでエンツォと同じように超人パワーを手に入れますが、当然ながらジンガロはヒーローに勝てるはずがありません。というのは、エンツォと違ってジンガロは、自分の過去に閉じ込められたまま最後まで変化しない人物だからです。彼が歌う80年代のポップ音楽や服装もそれを語っていると思われます。
“何も恐れずにいつまでも戦ってくれる”ヒーロー
日本人観客の中でもすぐわかる人が少なくないと思いますが、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』のエンディングソングは、エンツォ役のクラウディオ・サンタマリアが歌う、アニメ『鋼鉄ジーグ』のエンディングのリメイクなのです。80年代に『鋼鉄ジーグ』を観ながら育ってきたイタリア人の中で、この歌を知らない人はいないと言っても過言ではないでしょう。それだけイタリア人にとって鋼鉄ジーグは、“何も恐れずにいつまでも戦ってくれる”ヒーローなのです。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』は、『鋼鉄ジーグ』のファンはもちろん、そうでない人やもともとスーパーヒーロー映画をあまり観ない人にもぜひ映画館に足を運んでいただきたい作品です。“イタリア映画”や“スーパーヒーロー”というジャンルを超えた傑作が、あなたを待っています。
■グアリーニ・ レティツィア
南イタリアのバジリカータ州出身で、2011年から日本に滞在。ナポリ東洋大学院で日本文化を勉強してから日本の大学院に入学。現在、博士後期課程で女性作家を中心に日本現代文学を研究しながら、ライターとして活躍中。
■公開情報
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて公開中
監督・音楽・製作:ガブリエーレ・マイネッティ
脚本:二コラ・グアッリャノーネ
出演:クラウディオ・サンタマリア、ルカ・マリネッリ、イレニア・パストレッリ、ステファノ・アンブロジ、マウリツィオ・テゼイ、フランチェスコ・フォルミケッティ、ダニエーレ・トロンベッティ、アントニア・トルッポ、サルヴォ・エスポジト、ジャンルカ・ディ・ジェンナー
提供:ザジフィルムズ/朝日新聞社
配給:ザジフィルムズ
原題:Lo Chiamavano Jeeg Robot/2015/イタリア/カラー/119分
(c)2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. - Rome, Italy. All rights Reserved.
公式サイト:www.zaziefilms.com/jeegmovie/