現代イタリア映画に見る新たな可能性ーータブーに挑むパオロ・ヴィルズィ&マルコ・ベロッキオ
精神病と宗教を絡ませる、マルコ・ベロッキオの世界
マルコ・ベロッキオ監督の最新作『スイート・ドリームス』(2016年)においても、精神病と孤独が大きなテーマとなっている。
『スイート・ドリームス』では、9歳のときに母を失った男マッシモの人生が描かれている。40歳を超えてもマッシモは、母親の死因が心臓発作だと思い込み(あるいは、家族から思い込まれると言ったほうが正確だ)、その喪失を受け入れることができずに大人になった。
ある日、パニック障害を起こし強い不安感に襲われたマッシモは、病院に電話したことをきっかけに女医エリーザと出会う。そして、その出会いを通じて、自らの少年時代と向き合うことになり、母親の情緒不安定な状態と彼女の本当の死因を受け入れるようになるのだ。
ある教会における神父の自殺にまつわる謎を描いた『私の血に流れる血』(2015年)、精神疾患をもつ兄に母親を殺害された過去を抱える人物を中心に物語が綴られた『母の微笑』(2002年)、また、てんかんの登場人物を中心に機能不全家族の物語であるベロッキオ監督のデビュー作『ポケットの中の握り拳』(1965年)。ベロッキオの映画世界において、精神疾患が依然として主題だと言っても過言ではない。
ベロッキオ監督の他の作品と同じように、『スイート・ドリームス』においても宗教との関係、そして母息子の関係に焦点が当てられているが、その中心には精神病のタブーと障害の受容がある。つまり、主人公マッシモの物語を通じて、過去に執着せず、現在にもはや存在しないものを手放すことによって、苦しみから解放される過程が明らかにされるのだ。
映画がタブーを破る時
現代社会において精神障害が未だにタブー視され続けていることは否定できないだろう。あるいは、他人事のように考える人も少なからずいる。しかし、現代社会に生きる人間なら、誰にでも心の問題を抱く可能性があり、健康な人にとっても、精神障害は対岸の火事ではないはずだ。
パオロ・ヴィルズィとマルコ・ベロッキオはそれぞれの作品を通じてそのタブーを破り、様々な角度から精神病を洞察しながら、観客に自己と他者を見る新たな視点の可能性を提示している。
■グアリーニ・ レティツィア
南イタリアのバジリカータ州出身で、2011年から日本に滞在。ナポリ東洋大学院で日本文化を勉強してから日本の大学院に入学。現在、博士後期課程で女性作家を中心に日本現代文学を研究しながら、ライターとして活躍中。
■イベント情報
「イタリア映画祭2017」
会期:【東京】4月29日(土・祝)〜5月6日(土)
【大阪】5月13日(土)〜14日(日)
会場:【東京】有楽町朝日ホール(東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11階)
【大阪】ABCホール(大阪市福島区福島1-1-30)
料金:【前売】一般:1450円、学生・60歳以上:1350円
【当日】一般:1700円、学生・60歳以上:1600円
主催:イタリア文化会館、朝日新聞社、イスティトゥート・ルーチェ・チネチッタ
後援:イタリア大使館
協賛:FCA ジャパン株式会社、フェラガモ・ジャパン株式会社
協力:株式会社帝国ホテル、アリタリア-イタリア航空、株式会社WOWOW
公式サイト:http://www.asahi.com/italia/