芳根京子『べっぴんさん』でなにを得た? 10代で“女性の一生”を演じきった意義

 いよいよ今週で最終回を迎えるNHK朝の連続テレビ小説『べっぴんさん』。先週放送された第25週目では、東京・銀座への出店計画の資金繰りに悩むと同時に、“キアリス”の創業メンバーが次の世代へバトンを繋ぐために引退を決意するという大きな転機を迎えた。実質的に先週でこの物語は完結し、今週はエピローグ的なニュアンスになるのだろうか。

 この半年間、ヒロイン・すみれを演じる芳根京子を見続けてきて、率直な感想を挙げるならば、劇中のすみれの口癖と同じく「なんか、なんかなぁ」である。一昨年の夏、『表参道高校合唱部!』から彼女に注目し続けている筆者だが、何とも曖昧な感想になってしまうのは他でもない。今現在の彼女に期待している“芳根京子らしさ”がすっかり封印されているからなのだ。

 これまで彼女が他の作品(ドラマと映画を合わせて15作品ほどだろうか)で演じて来た役柄といえば、ほとんどが彼女自身と同じ年代の少女で、とにかく明るくて天真爛漫。そして何か難しい悩みに直面した時は、寡黙にそれと向き合っていく。そんな役柄のイメージが、そのまま女優・芳根京子のイメージとして確立されてきたのだ。

 もちろん、今回『べっぴんさん』で彼女が演じたすみれも、その性格イメージにぴったりとはまった役柄である。これまでと大きく異なる点を挙げれば、初めて実年齢以上の役柄に挑んでいることである。前回彼女について書いた記事(参考:『べっぴんさん』が急激に面白くなった理由ーー“無時代感”と50年代アイテムのバランスから読む)で、ドラマの後半でさくらを演じる井頭愛海との実年齢4歳差の親子芝居をどうこなしていくのかに注目した。

 本作の前半、女学生だった時分のエピソードから、戦後まだ女学生気分が抜けなかったあたりまでは、飛び跳ねたり走り回ったりといった身体的アクションはないにしろ、あどけない表情を頻繁に見せ、いつも通りの芳根京子が画面に映し出されていた。ところが、後半に入り、娘が成長していくと同時に、その娘との接し方や、大きくなっていく“キアリス”の専務として、必然的に落ち着いた女性の風貌を湛えるようになったのだ。

 もちろん、これは今後彼女が女優として大成していく過程で、必ず演じていくに違いないタイプの役柄である。それをひとつの作品の中で、短期間で見せられることも、老いのメイクを最小限に抑え、ヘアスタイルや雰囲気で年齢の経過を表現していくスタイルも、朝ドラの定番ではあるが、どうもアンバランスさを感じてしまうのである。

 たとえば、今回の『べっぴんさん』に臨む以前に、いくつもの女優の顔を持ち合わせていたら印象は違っていたかもしれない。とはいえ、これまでブラッシュアップしてきたワンイメージをかすかに残しながらも、ひとりの女性の年代記を演じきり、また初めての母親役、方言芝居への対応など、わずか半年で彼女の経験値が急上昇したことは間違いない。少なくともこの一作で、彼女はたくさんの女優の顔を獲得したのである。

 ちょうど20歳の誕生日である2月28日にクランクアップした本作。つまり芳根京子という女優は、10代のうちにこの先経験していく未来を一足先に駆け抜けて見せたわけだ。これから彼女が様々な役柄に挑んでいくとき、キャリアの最初の大きな1ページである『べっぴんさん』が、予行練習だったと思えればそれ以上のことはない。

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