『カルテット』は“性愛”をどう捉えたかーー“唐揚げ問題”が示す、新たな家族のカタチ

『カルテット』“唐揚げ問題”の意味

 では、カルテットドーナツホールの4人の場合はどうだろうか。彼らの価値感はまったく違う。唐揚げの食べ方ではパセリを巡って最後の最後まで意見が分かれるし、映画を見ても、同じ見方はできないけれど、「そういうのを楽しむ映画なんです」と言うことができる。真紀の夫が、真紀から「この人いい人? 悪い人?」と聞かれて、いらつきながらも優しく説明しかできないのも、愛があればすべて分かり合えるはずだったのに、という期待に甘えているからだ。

 しかし、カルテットの4人の間でも「好き」はもっとも重要なものではあるが、それが性愛と結びついていないだけに、「わかって当然」と変化することがなかった。

 もちろん、『カルテット』では、様々な性愛も描かれていたし否定もしていない。しかし、一緒に生活をしていく4人の間にはそれがないし、それが最も重要とも書いていない。その状態のまま、きっと4人は共同生活をしていくのだろう。それは、今までの家族の在り方を超える結末だ。通常、物語の中のこうした共同生活は、長い夏休みのように、いつかは終わるものとして描かれがちだ。モラトリアムはいつか終わらないといけない、とされているからだ。

 しかし、別府は、二度寝をしないすずめと、週に7日働く家森を見て、自分だけがキリギリス(=モラトリアム)を卒業できていないと嘆く。でも、このドラマは最終的には、キリギリスでもいいじゃないかと言っているように見える。モラトリアムを卒業していく先が、夫婦になることだとされているのに対し、このドラマは、性愛を通じてつながった夫婦だけが家族の形ではない、というメッセージを込めているような気がするのだ。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■番組情報
火曜ドラマ『カルテット』
TBS系列
出演:松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平、吉岡里帆、富澤たけし(サンドウィッチマン)、八木亜希子、Mummy-D、もたいまさこ、宮藤官九郎
第1話ゲスト:イッセー尾形、菊池亜希子
第2話ゲスト:菊池亜希子
第3話ゲスト:前田旺志郎、中村優子、太田しずく、辻よしなり、高橋源一郎
第4話ゲスト:高橋メアリージュン、大江優成、長島敬三
第5話ゲスト:浅野和之、平原テツ、安藤輪子、森岡龍
第6話ゲスト:大森靖子、阿部力
第8話ゲスト:大倉孝二、木下政治、森岡龍、ミッキー・カーチス
第9話ゲスト:大倉孝二、篠原ゆき子、木下政治、坂本美雨
第10話ゲスト:松本まりか、伊達暁、黒田大輔
脚本:坂元裕二
チーフプロデュース・演出:土井裕泰
プロデュース:佐野亜裕美
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/quartet2017/

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