松たか子×満島ひかり×吉岡里帆、圧巻の会話劇! 『カルテット』第一幕を終えて

 現在放送中の火曜ドラマ『カルテット』(毎週火曜日22時~/TBS系)が、その内容の充実と役者たちの名演によって、じわじわと支持を集めている。2月15日に放送された第5話の視聴率は8.5%で、前週の7.2%から1.3%上昇(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。各方面での高評価が、徐々に数字に繋がってきている印象だ。物語もいよいよ勢いを増し、登場人物それぞれの謎が明かされていく一方、主人公・巻真紀(松たか子)の失踪していた夫が見つかるなど、新たな局面を迎えている。第5話ではとくに、松たか子、満島ひかり、吉岡里帆の三人が繰り広げるスリリングな会話劇が、白眉の一幕だった。

 真紀がカルテットのメンバーである別府司(松田龍平)とともに、東京のマンションを訪れていたところ、真紀の義母である巻鏡子(もたいまさこ)と遭遇するところから、第5話はスタート。鏡子は真紀が旦那を殺したと疑っていて、世吹すずめ(満島ひかり)と来杉有朱(吉岡里帆)に彼女の調査を依頼している。真紀と会っているときは、物分りがよく穏やかな母を演じているが、腹の底では相手を信用していない鏡子は、会話の端々に棘を仕込む。序盤から、緊張感のある展開だ。

 そんな中、真紀らカルテットのもとに音楽プロデューサーの朝木(浅野和之)が現れ、クラシック音楽のフェスティバルに参加しないかと誘う。司はこのチャンスをものにするため、しばらくはひとりひとりの夢は捨てて、「カルテットドーナツホール」としての夢を見ようと提案する。メンバーたちは大きなステージに立つことへの希望を抱くのだが、練習に向かうと、想像していたのとは異なる仕事だったことがわかる。とあるアニメのキャラクターに扮して演奏するというもので、メンバーはそれぞれ決めセリフを覚え、ダンスの練習もさせられる。それでも仕事だからと請け負うつもりだったが、当日になって共演予定のピアニストがリハーサルに参加できないため、本番では音源を流して“当て振り”するように指示され、いよいよすずめらが反抗する。「ぜったいに嫌」と涙をにじませるすずめだったが、しかし真紀は、「これが私たちの実力なんだと思います。現実なんだと思います。
しっかり三流の自覚を持って、社会人失格の自覚を持って、精一杯全力出して、演奏しているフリをしましょう。プロの仕事を、カルテットドーナツホールとしての夢を見せつけてやりましょう」と呼びかけ、メンバーはステージに立つことを決意する。苦い現実と向き合い、それでも仕事を全うしようとする態度には、心を動かされるものがあった。

 仕事を通じてメンバーの心は一丸になったかに見えたが、問題はここからだった。ライブハウス「ノクターン」店員の有朱が、メンバーのためにドレスのお下がりを持って別荘を訪れるのだが、真紀・すずめとともにドレスの仕立て直しをしながら、真紀に対して結婚生活について根掘り葉掘り、不躾な質問を投げかけるのだ。「浮気はバレなかったらしてもいい」という考え方について、真紀の本音を聞き出そうとしたかと思えば、「真紀さんって、主婦業はどうしてるんですか?」「ご自宅、東京ですよね?」と、矢継ぎ早に質問を投げかける有朱。その手には、かつてすずめが真紀との会話を録音していたテープレコーダーが握られている。有朱もまた、鏡子の差し金だと気付いたすずめは、彼女の無遠慮な質問をやめさせようと、会話を別の方向に持って行くため、「ロールケーキを食べよう」と口を挟む。それぞれの思惑がぶつかり合い、ふたりのセリフもまた、重なり合う。真紀は戸惑いながら、ふたりの質問を選びつつ、応えていく。

 すずめが「聞き出すようなことするから!」と、有朱を責めると、有朱は「ダメなんですか、知りたくないですか?」と目を見開いて言い返す。さらに真紀に、「このドレス、本当に気に入っていますか? ちょっとなぁって思っているけれど、この子がせっかく持ってきてくれたからなぁって、思っていませんか?」と、本音と建前の壁を破るような言葉を浴びせかけ、彼女の目の前で手を打ち鳴らし、「ほら、真紀さんも嘘つき!」と言いのける。当サイトのコラムでは以前、吉岡里帆が物語におけるジョーカーだと指摘していたが、まさかここまでのサークルクラッシャーぶりを見せつけるとは、畏敬の念すら抱くほどだ。そして、彼女の勢いのある芝居に負けずと、「すずめだけど人間です」などと、独特のキャラクターを貫き通す満島ひかり。自分に向けられる台詞に対して、的確な芝居で返す松たか子。台詞そのものの鋭さもさることながら、3人が3人とも実力派の名女優だからこそ成立した、圧巻の会話劇だったといえよう。(参考:『カルテット』吉岡里帆は不穏かつ最強の“ジョーカー”だ! 笑顔の内側に何を秘める?

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