“実名ドラマ”がひそかなブームに? 『住住』でバカリズムが挑む、フィクションとリアルの境界

『住住』バカリズムの挑戦

 比較してみると、『バイプレイヤーズ』は始めからフィクションであることが明確で、個性派俳優の6人は10年前にいったん決裂したが今回、映画を撮るために集められたという物語設定がある。そのしっかりした土台の上に、『オヤジ俳優のキャラかぶり』などのあるあるネタや、遠藤憲一のナレーションに遠藤自身が号泣するようなセルフパロディを載せ、フェイクドキュメンタリードラマとして上手く成立させている。一方、『山田孝之のカンヌ映画祭』は実録ということになっていて、山田が映画を作るため、日本映画大学からメジャー配給会社の東宝まで、次々にツテを頼って訪ねていく。手法としては『進め!電波少年』のアポなし取材に近く、利用できるものは利用するぞとばかりに映画業界を混乱に陥れる山田のクラッシャーぶりは凄まじいが、ときどき「カンヌで賞を取りたいがゆえに暴走する自己中キャラ」を演じている瞬間も見えてしまう。この演技なのか素なのか分からないというスリル感こそ、フェイクドキュメンタリーの魅力なのだろう。

 インターネットの集合知によってすべての虚飾が剥がされてしまう今、フィクション性の高いドラマを成立させるのは、どんどん難しくなってきている。1月クールのドラマがいくつかそうであるように、内容にリアリティがないと思われたり、キャスティングミスと言われたりしたら、見続けてもらえない。その点、実名ドラマであれば、キャストが本人を演じる以上ミスはありえないうえに、「フェイク(しゃれ)だから」という言い訳を用意しているので、『バイプレイヤーズ』で光石研と山口紗弥加が不倫をした(ガチでチューしていた!)というような冒険もできる。そして、それを見る私たちは「フェイクだって分かっているけれど、ここまでやるとは」と虚実皮膜の面白さを味わうのだ。そう、今は小栗旬のモノマネを小栗旬自身が再現してみせるセルフパロディの時代。バカリズムを始め、新しいドラマを作ろうとしているクリエイターたちが、そこに挑もうとするのは当然の流れなのだろう。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
『住住』
毎週火曜深夜1:29~1:59、日本テレビにて放送中
Huluにてオリジナル版独占先行配信中
出演:升野英知(バカリズム)、二階堂ふみ、若林正恭(オードリー)
原案:バカリズム
脚本:バカリズム、オークラ、安部裕之
主題歌:Enjoy Music Club
チーフプロデューサー:松岡至(日本テレビ)
プロデューサー:吉無田剛(日本テレビ)、大内登(SWEAT)
Hulu制作:毛利忍
Huluプロデューサー:岩崎広樹
監督:住田崇(SWEAT)、橋本和明(日本テレビ)
制作協力:SWEAT
(c)日本テレビ
公式サイト:http://www.ntv.co.jp/sumusumu/

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