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ケガ人続出の物騒なロードレースに胸キュン!? ラブコメ映画としての『疾風スプリンター』

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 香港映画と言えばジャッキー・チェンの頃から体を張るイメージが強いもの。しかし『疾風スプリンター』ほど体を張っている映画も珍しい。本作はロードレース、つまり自転車を題材にしたスポーツ映画だが、その撮影は下手な格闘アクションより危険なものだったらしい。事実、スタッフ・キャストに80人を超えるケガ人が出たと言うし、エンドロールでは転倒して血まみれになっている人や、救急車で運ばれていく人など、メイキングと言うには物騒すぎる衝撃映像が挿入されている。端的に言ってやり過ぎだが、その過剰さこそが本作を非凡なものにしている。そして、この香港映画界でも稀に見る過剰さこそ、監督であるダンテ・ラムの持ち味だ。

 「私の映画に出る役者には、登場人物同様、苦しんでもらうよ」そう言い切るダンテ監督は、これまでもハードなアクション/スポーツ映画で名を馳せてきた。全編通して息が詰まるようなサスペンス『ビースト・ストーカー/証人(‘08)』、普通のおじさん俳優であるニック・チョンがCGのようなムキムキに肉体改造した総合格闘技映画『激戦 ハート・オブ・ファイト(’13)』など、どれもこれも鬼気迫るという言葉が相応しい。

 時にはリアリティを追及するためだと俳優に十数キロにもなる本物の特殊部隊の装備を身に着けさせてアクションをさせるなど、その演出スタイルには一切の妥協がない。鬼監督、強面、硬派、怖い人……これらがダンテ・ラムに対するイメージだろう。しかし、ダンテ監督の映画には、それら物騒な言葉とは180度真逆と言っていい、もう1つの魅力がある。ダンテ監督の映画は火薬、暴力、男気が過剰であるように、胸キュン要素もまた過剰なのだ。『疾風スプリンター』は、そんなダンテ監督の過剰な胸キュン要素がキャリア史上でも最大値を記録している1本だ。

 本作はロードレースにかける若者たちの青春群像劇である。才能あふれる派手でヤンチャな青年と、その親友となる真面目で地味な青年。そして二人の前に現れた、芯が強いながら、何処か儚げな女性。物語はこの三人の三角関係を一つの軸にして展開していくのだが、この恋愛模様もダンテ監督は過剰に描いていく。その結果、「今日日、小学生向けの少女漫画ですら、もうちょっとスレているぞ……」と言いたくなるような、ピュアすぎる恋愛模様が銀幕に炸裂しているのだ。そのあまりの甘酸っぱさに、見ているこっちが恥ずかしくなって、筆者は久しぶりに劇場で身をよじった。

 ヒロインがアルバイトをしている本屋に行けば、ヤンチャな方は「キミを愛している」など、そういうタイトルの本の表紙をわざとヒロインに見せて笑いを誘う。一方、真面目な方は恋愛のハウツー本を必死に読みふけって、その頃ヤンチャな方は本に飽きて店内で爆睡……この分かりやすい対比はどうだろう。他にも恋のバトルが始まると、いい年の男二人が一度に抱えられる段ボール箱の数で競い合うなど、とにかく甘々な恋愛模様が続く。さらに絵に描いたような悪いパパラッチ(陳腐な表現だが、本当に悪いパパラッチとしか言いようがない人が出てくる)や、怪しげな金髪美女、金儲けしか頭にないスーツを着た汚い大人たちなどが、ピュアな主人公らを毒牙にかけようと画策する。悪く言えばテンプレ通り、よく言えば一々こちらの期待を裏切らない。しかも、そんな小学生がキャッキャとじゃれ合うような恋愛を、完全に体が仕上がったムキムキの人たちがやるせいか、これが何とも言えない奇妙な味わいを生んでいる。

      

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