『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』特別対談

ダースレイダー × DJ OASIS『ローグ・ワン』対談「フォース的な思想は、自分を良い方向に導く」

 現在公開中の映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』が好調だ。同シリーズ初のスピンオフである本作は、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77年)が始まる直前を描いた物語で、エピローグの「反乱軍のスパイは帝国の究極兵器の設計図を盗み出すことに成功する」エピソードを映画化したもの。長年のスター・ウォーズマニアは、同作をどのように楽しんだのか? リアルサウンド映画部にて映画レビューを連載中のラッパー・ダースレイダーと、ヒップホップ業界で1、2を争うマニアとして知られるDJ OASISが、同作の見どころをたっぷりと語り合った。

DJ OASIS「まず『エピソード4』だけは観てほしいところ」

左、DJ OASIS。右、ダースレイダー

ダースレイダー:DJ OASISさんは、ヒップホップ業界の中でも屈指の『スター・ウォーズ』マニアで、しかも作品を全肯定するスタンスなんですよね。

DJ OASIS:宇多丸に「全肯定すぎる」って言われるくらいだからね(笑)。

ダースレイダー:どれくらい全肯定かというと、ファンの間でとにかく非難されている不人気キャラクターのジャー・ジャー・ビンクスでさえ、OASISさんは肯定しているという。『エピソード1』から出てくる新キャラで、ジョージ・ルーカス的には子ども人気を集める狙いがあったそうなんですが、やらかしキャラで多くの人に嫌われてしまいました。

DJ OASIS:まあ、『エピソード3』とかを観ると、一連の騒動は全部あいつのせいなんじゃないか?ってところはあるよね。でも、俺的には全然OK。むしろどこが嫌われポイントなのかわからない。クリーチャーとしてのフォルムだって悪くないし、重要な局面で意外に活躍するところとか、すごくピュアなところとか、良いと思うよ。たぶんね、みんな『スター・ウォーズ』に対して期待しすぎなんだよ。俺、新シリーズが出ても基本的に良い意味で期待せずに行くから。そうすると、大概のことは受け入れられる。

ダースレイダー:スーパー受け入れ体制で観るのがOASISさん流であると。『エピソード1』『2』『3』は評価が分かれるところですが、『4』『5』『6』は逆に評価が定着していて、特に『4』に関しては名作とされています。OASISさんはその全シリーズを通して肯定的な立場を取っているということですが、今回の『ローグ・ワン』に関してはどうでしょう?

DJ OASIS:もちろん肯定しているよ。ただ、『ローグ・ワン』を観るなら、まず『エピソード4』だけは観てほしいところだね。その方が楽しめるのは間違いない。ほぼ説明がなくて、『4』を知っていることが前提になっているから。

ダースレイダー:『4』は公開後にどんどん改編されて、いろんなバージョンが出ていますよね。いまBlu-Rayなどを観ると、当時劇場で公開されていたものとはだいぶ違うものになっていますが。

DJ OASIS:どのバージョンから入っても良いと思うよ。ファンの間ではところどころ改編された箇所に賛否があるだろうけれど、映像のクオリティが上がっているのは単純に嬉しい。なんなら、ハン・ソロとジャバ・ザ・ハットが話すシーンも別になくて良かったんじゃない?ってくらい。まあ、クリーチャーまで変える必要はなかったとは思うけれど。わざわざ古い方を観てから『ローグ・ワン』を観るべき、とは全然思わない。とりあえずストーリーを押さえて貰えば。

ダースレイダー:では、『4』に関してはネタバレもありということで話を進めていきたいと思います。『ローグ・ワン』はスピンオフ作品で、『4』のエピローグに入っていたエピソードを膨らませた物語になっています。『3』と『4』の間のミッシングリンクで、実はすごく重要なエピソードでしたよね。

DJ OASIS:ファンにとっては、一番知りたかった部分だと思う。こんな話だったんだって驚いて、公開から6日で3回も観ちゃったよ。これから吹き替え版も観に行こうと思っているんだけれど、なんで何回も観るかというと、2回目、3回目と重ねるほどに発見があって面白いんだよね。悪役のグランド・モフ・ウィルハフ・ターキンとか、意外と背が高くて、立ち方も堂々としているなとか。『反乱者たち』ってアニメの中にゴーストっていう船があるんだけれど、それがちゃんと映っていたりね。

ダースレイダー:ファンに嬉しい小ネタが満載なうえ、もともとのイメージが刷新された部分もあると。大きなポイントとしては、『3』でジェダイが全滅した後の時代を描いていて、その代わりに新キャラクターとしてチアルート・イムウェなどが登場します。チアルートはフォースを信じる戦士で、香港の大人気アクション・スターのドニー・イェンが演じたことでも大きな話題となりました。

 

DJ OASIS:チアルートはめちゃくちゃ良かったですね。さすがアクション・スターという感じで、動きだけを見るとジェダイより強そうに見えるという(笑)。

ダースレイダー:それはありますね(笑)。『エピソード1』『2』『3』を見て、僕の中で“ジェダイ弱い説”というのが浮上してきたんですが、その考えを後押しする部分がありました。ジェダイって基本的に良いやつで、人を疑ったりしないじゃないですか。だから、すぐに罠にハメられちゃう。クワイ=ガン・ジンはちょっと頭良さげな感じなんですけど、若き日のオビ=ワン・ケノービにいたっては、ライトセイバー落とすわ、騙されるわで、スキが多いんですよ。

DJ OASIS:そこはフォースで気付けないんだ?って思うよね。

ダースレイダー:そうそう。だから、相手を疑うこと自体がダークサイドなのかなって。チアルートもジェダイ憧れの人だから、そういうピュアなところありますけれどね。彼にはフォースはないって設定だけれど、視力がない座頭市キャラで、ちょっとシックス・センスみたいなものがある。登場時の殺陣、ジェダイの街で大暴れするシーンがすごく良いです。もともと『スター・ウォーズ』って、黒澤明の時代劇とかがルーツにあるというけれど、それがストレートに表現できているキャラクターでした。おそらく、ヨーダみたいなジェダイ・マスターには全然敵わないけれど、普通のジェダイよりは強いんじゃないかなって感じさせる。とはいえ、ジェダイ憧れでピュアすぎるから、やっぱりシスには敵わないよなって。ぶっちゃけ、ジェダイよりシスになった方が強い感じがしますよね。シスは二人以上いると殺し合いを始めちゃうから共存できないって設定がもともとあったけれど、ダース・ティラナスとダース・シディアス、ダース・モールの3人は、年表的には同じ時期に存在している。

DJ OASIS:たぶん、ほかにも隠れていたりするんだよ、シスは。出会ったら殺しあっちゃうけれど、離れていればある程度は大丈夫なんじゃない? 一緒にいられるのは、師弟関係にある場合だけみたいな感じで。

ダースレイダー:ダース・シディアスとダース・ベイダーは師弟関係ですものね。今回もダース・ベイダーが少し出てきますが、すごく怖いキャラクターとして描かれていました。

DJ OASIS:今回はすごかったね。でも、ルックス的にはちょっと好みと違ったかな。なんか、首太くない?みたいな。違う人が入っている感じがあった。とはいえ、彼がどれだけ怖い存在かを示すという意味では、本当に良いシーンだったと思う。

ダースレイダー「肩透かし感も『スター・ウォーズ』の醍醐味」

ダースレイダー:『4』とのつながりを楽しむ以外のところで、OASISさんが見どころだと感じたのは?

DJ OASIS:『スター・ウォーズ』が、タイトル通り戦争を描いた物語なんだなってところは、改めて感じたよね。過酷さを感じられるところもそうだし、これはスクリーンに映らないところで何年も続いていたものなんだって、実感が湧いた。勧善懲悪じゃなくて、反乱軍も悪いことに手を染めているのを描いているのも、戦争映画として面白かった。

ダースレイダー:帝国軍イコール悪っていう単純な描き方をしていないのは良いですよね。反乱軍も帝国軍っていう強大な力に立ち向かうためには、汚いこともやらなきゃいけないっていう。そこが本編シリーズよりも泥臭くてリアルでした。主人公のジン・アーソはどう見ましたか?

DJ OASIS:新シリーズの『フォースの覚醒』よりキャラが立っていないと言う人もいるけれど、あくまでスピンオフだから、それで良いと思んだよね。『4』を観れば、すでに亡くなった人たちの話だというのはわかるわけだし、そこにスーパースターみたいなキャラがいるとおかしくなってしまう。名も亡き戦闘員たちの話だからさ。

ダースレイダー:『フォースの覚醒』は新シリーズだから、逆にキャラ立ちしていないと困りますしね。多くの人は、それまでほとんど無名だったデイジー・リドリーが、レイを演じて一気にスターになったような流れを、『ローグ・ワン』にも期待してしまった部分があるのかもしれません。

DJ OASIS:キャスティングの方向性がそもそも違うからね。今回は、戦闘員にはいろんな人種がいて、ある意味では群像劇のような側面があったから。

 

ダースレイダー:登場人物に多様性があって、マイノリティの人たちを描いているのは今風ですね。ところで、ジンがフォースを信じるようになるのって、やっぱりお母さんの影響が大きいと思うんだけれど、なんでお母さんは単なる地質学者なのに、あんなに信仰が厚かったんだろうって疑問はあります。

DJ OASIS:わかんないけど、そこを「こうだったんじゃないか?」って想像して埋めていくのが、『スター・ウォーズ』の正しい楽しみ方のひとつだよね。

ダースレイダー:まさにそうですね(笑)。反乱同盟軍の最高指導者であるモン・モスマとか、重要なキャラクターのはずだけれど、あんまり活躍しなかったりして。その肩透かし感も『スター・ウォーズ』の醍醐味。

DJ OASIS:『フォースの覚醒』で、ものすごく期待されたキャプテン・ファズマも、肩透かしだったよね。次回もまた出てくるらしいけれど、超弱い可能性だってある。

ダースレイダー:単にでかいだけ、みたいな(笑)。一方で新たに登場したK-2SOは、これまでにいなかったタイプのドロイドでしたね。R2-D2は基本的に従順だし、C-3POは悲観的なやつだから、心配ばかりしているイメージだけれど、K-2SOは反抗的な性格でした。

DJ OASIS:帝国軍のドロイドで技術的に進んでいるから、感情も複雑なんじゃないかな。

ダースレイダー:C-3POとかはアナキンがジャンク品で作ったやつだから、当時の技術水準をより正確に反映しているのはK-2SOの方なのかもしれませんね。

DJ OASIS:今までのドロイドの中で一番、人間っぽいと思う。もしかしたら、同じ型でも性格が違うのかなって想像させるところが良かったね。『ローグ・ワン』はディズニーから一度、撮り直すように言われたらしく、単にハッピーエンドの物語になるのではという心配もあったけれど、むしろ全体としてより戦争物としてアクの強さを増した印象を受けたな。ドロイドの性格ひとつ取ってもそうだけれど、登場人物が亡くなるシーンとか、ちゃんと命の儚さを感じられる感じでさ。ドキュメンタリー的な雰囲気を演出している。あと、わざとレトロなイメージを残しているところも良かったね。もしルーカスが監督していたら、もっと最先端な感じになっちゃったと思うんだけれど、絶妙なポイントで止めてあって、ちゃんと『4』につながる世界観が構築されている。

ダースレイダー:『エピソード1』『2』『3』のデザインの方が、『4』『5』『6』より先鋭的ですよね。

DJ OASIS:ルーカスが言うには、『エピソード1』『2』『3』は戦争前だから、技術的には進んでいたんだってさ。戦争のせいで全体的にボロくなったと。後付けだと思うけれどね。

ダースレイダー:貨物用の巨大ロボット・AT-ACTとか、いかにも弱点だらけな感じが最高でしたね。誰がどう見ても足を狙えば良いってわかる。でも、みんな騎士道精神があるのか、意外と正面から迎え撃っているんですよ。

DJ OASIS:こんなの、その気になれば一発でしょ(笑)。『エピソード5』に出てくるのは、これの改良型なんだろうね。ただ、Xウィングの戦闘シーンとかは、細かい揺れがあったりして、機内から映す映像とかも含めてリアリティがあった。これまでのシリーズと大きく違うところで、戦争モノとしてのリアリティを追求したのだろうけれど、個人的には一番良かったと感じた。

ダースレイダー:セフラ中尉とか、ただの軍人として描いていますしね。ゲリラ戦では、反乱軍をテロリストみたいに描いたり。一方で、帝国軍は人間的に描かれていて、ゲリラを食らって内輪揉めしたりとか、官僚っぽい感じがあったりしました。

DJ OASIS:「結構、帝国軍もバタバタしてるじゃん」ってね。そういうのがわかったのは、収穫だった。

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