嵐・櫻井翔主演『君に捧げるエンブレム』Pインタビュー 「車椅子バスケの“かっこよさ”を描いた」
「一番大切なことは、いいものをつくっていくこと」
ーーラストに「このドラマは取材に基づいたフィクションです」というテロップが入ります。リアリティとフィクションのバランスはどうとりましたか?
増本:実は、僕がつくるドラマはどれも取材に基づいているので、いつもと変わらないんですよね。どれもドキュメンタリーとフィクションが混在していると思っています。あと、取材対象者をモデルにはしていますが、そっくりそのまま描いているキャラクターは1人もいません。ある取材対象者の特徴を膨らませてみたり、ある一人のキャラクターに、実在する数人の要素を混ぜ込んでみたり。だから今回も、鷹匠も奥様もご本人のキャラクターそのままではありません。基本的にフィクションです。ただ、物語にリアリティを出すためには取材が欠かせないと思っています。とにかく取材をたくさんして、そこから抽出したものを、物語に注ぎ込むというやり方です。
——障害者が主人公のドラマをつくる際に、気をつけたことはありますか?
増本:障害者の方々を題材にした一部の番組を、NHKさんが「感動ポルノ」と表現していたように「かわいそうだね」「がんばってるね」「えらいね」という視点からの物語がこの手の番組には多い。でも僕は、同情の涙を誘うようなつくり方はしたくありませんでした。なぜなら、僕が京谷さんや及川さんとお会いしたとき、真っ先に思ったことは「格好いい!」ということだったからです。単純に、F1レーサーやプロ野球選手に会ったときのような憧れと興奮がありました。京谷さん夫妻に出会ったときも、「苦労されたんだろうな」という空気がまったくなくて、「いい夫婦だな」「素敵な夫婦だな」と感じました。自分が感じた素直な気持ちを大切にして、人生を力いっぱい生きている格好いい人たちを描く番組にしたいなと思いました。
——実際、これまでの障害者の方が登場するドラマとは全然違いますね。変にかしこまらず、キャラが立ったスポ根ものとして楽しく見られる。井上雄彦さんの『リアル』にも通じるような。
増本:『リアル』は偉大な作品ですので、日本代表の取材をしたときに、同じく取材にいらしていた井上さんのチームとたまたまお会いした際には、「胸をお借りするつもりでやらせていただきます」というお話をしました。あと、取材対象者が実は一緒なんですよね。日本の車椅子バスケを引っ張っている巨人、スター選手となると、京谷さんや及川さんに行き当たるので、自ずと彼らに感化されたものになるんだと思います。
——アメリカの車椅子ラグビー選手を追いかけたドキュメンタリー『マーダーボール』も思い出しました。
増本:『マーダーボール』、格好いいですよね。実は企画をプレゼンするときに、『マーダーボール』の映像を2分くらいにまとめてオリジナルのダイジェストをつくったんです。車椅子バスケの話と言われると、人はどうしても「重くて暗いんでしょ?」という印象を持つので、「こんなにもスカッとしたイカす連中の話なんですよ」ということを伝えるために。反応は上々でした。
——『君に捧げるエンブレム』もそういうふうに受け取ってもらえる作品だと思います。湿っぽくなくて、フジテレビらしいドラマかもしれません。
増本:そうなるといいなと思っています。車椅子バスケという、サッカー、バスケット、野球と並ぶ、見ごたえのあるかっこいいスポーツに夢中になるヤツらを描いたつもりです。これを見たら多くの人はやる気になると思いますし、少なくとも嫌な気持ちにはならない内容になっているので、一年のスタートにふさわしいドラマだと思います。そして、2020年の東京オリンピックに向けての扉を開けられたらいいなと思います。
——2017年、フジテレビはどんなドラマをつくっていくのでしょうか?
増本:実際、数字があまりよくないなかで、一番大切なことは、いいものをつくっていくことだと思っています。他局に比べると、視聴者がフジテレビの番組に接触する可能性が少ないことをちゃんと認識し、チャンネルをせっかくあわせてくださった方に、毎回きちんと面白いものを出していけるかどうかが、僕らが生き残る鍵だと思っています。少なくとも自分が関わる番組に関しては、当たり前ですけど、高いクオリティのものをきちんとつくり、それを出来る限り多くの人に届くように宣伝もきちんとする。シンプルですけど、それが一番確実な戦術だと思っています。今の視聴者は賢いですから、お手軽につくった番組は見抜かれますので、じっくり努力を怠らずにつくっていく。
——『君に捧げるエンブレム』の完成披露試写会を行い、SNSで拡散する宣伝方法もそのひとつですね。
増本:はい。あと、プロデューサーにはいろいろなタイプがいますが、僕個人としては、なるべくオリジナルの物語をつくり出したいと思っています。テレビという文化が生き延びていくためには、テレビがオリジナルの物語を発信していく必要があると思っていて。極端な話、原作ものに頼ってばかりいると、テレビは翻訳するだけのメディアになり、存在意義がなくなってしまうのではないかという危機感があります。だから僕個人としては、テレビ発のオリジナルをつくり、数多くの人に見てもらうという作業を、黙々とやっていきたいと思っています。
(取材・文=須永貴子)
■番組情報
新春大型ドラマ『君に捧げるエンブレム』
1月3日(火)21時~23時30分放送
原案:京谷和幸
脚本:安達奈緒子
プロデュース:増本淳、浅野澄美(FCC)
演出:西浦正記(FCC)
制作著作:フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/kimien/