青春はアンディ・ラウとともにーー台湾メガヒット映画『私の少女時代』のノスタルジー
あの頃、アンディ・ラウと共にあった青春時代
このように青春時代を俯瞰するにあたって、本作のまさに肝とも言える要素が炸裂する。それが「アンディ・ラウ」を物語に織り込むという突拍子もない演出だ。そもそも現代シーンから始まる本作が「過去」へ回帰するきっかけも、ラジオから聴こえてくるアンディ・ラウの歌声。その上、90年代の生活には彼のポスターやシール、キーホルダー、等身大パネルなど様々な要素が満ち溢れている。それらは決して主張しすぎることなく、しかし常に付かず離れず主人公たちの人生に寄り添っているかのよう。その光景に思わず『あの頃、アンディ・ラウと』などと副題をつけたくなるほどだ。
かくもアンディ・ラウのポスターに見守られながら、この映画では登場人物の誰もが「ほんとうの自分探し」の途上にあって、姿、格好、生き方を模索し、変わり続ける。この「変化」という側面は本作の裏テーマと言ってもいいかもしれない。
現代に生きる主人公は、会社で仕事や人間模様に揉まれながら「変わりたい」と思い続けている。そこから舞い戻る90年代の記憶では、地味で冴えなかった外見が華麗にイメチェンして洗練されてゆく様が描かれるし、相手役の男子にしても不良と優等生の狭間で揺れうごいている。台詞の中では「“大丈夫”は、“大丈夫じゃない”という意味」と一つの言葉の表裏性が語られ、男女二人を結びつけるのも「幸福の手紙」と銘打たれた実質上の「不幸の手紙」だ。
本当の気持ちと偽りの気持ちに揺れ動く男女を見ているのは観客として甘酸っぱくもむずがゆい。自分らしさをなかなか見つけられない彼らの姿はもどかしくもある。だが結局、自分が何者かを決めるのは自分。何が本当の価値なのかを見極めるのも自分自身。そういった思いをヒロインが全校生徒の前で吐露するシーンは、これまでの伏線を回収するかのような潔さを持って胸に響く。いわば少年少女たちがさなぎから孵化していこうとする場面ともいえよう。
重要なのは、これほど激変し続ける彼らが存在する一方、香港の四大天王とも呼ばれるアンディ・ラウは80年代よりずっとスターとして君臨し続け、月日が流れてもあの頃のままだということ。この普遍性の軸足が揺るぎないからこそ、ヒロインたちがどれほど青臭く右往左往したとしても映画的にはビクともしないというか、なおのことアイコンとしてのアンディ・ラウの普遍ぶりが際立っていく。
はてさて、青春ドラマにしては長尺な134分の旅路を終える頃、ヒロインの行き着く先に一体どのような展開が待ち構えているのか。ここで「マジか!」と驚きながらも、案外私たちは映画を観ながらこうした展開が訪れるのを薄々と感じ取り、期待していたようにも思う。奇跡は案外起こるものだし、それはその人がたどる一つ一つの挫折と決断、選択の賜物でもある。神様は見ていないようでいて意外と見ているもの。そして時々それに報いようと、微笑み返してくれるのかもしれない。
■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter
■公開情報
『私の少女時代-OUR TIMES-』
新宿武蔵野館ほかにて公開中
製作:イエ・ルーフェン
監督:フランキー・チェン
出演:ビビアン・ソン、ダレン・ワン、ディノ・リー
特別出演:アンディ・ラウ、ジョー・チェン、ジェリー・イェン
配給:ココロヲ・動かす・映画社 ○
原題:我的少女時代/英題:Our Times/日本語字幕:木村佳名子
2015年/台湾/ 134分/カラー/中国語・ビン南語
(c)2015 Hualien Media Intl. Co., Ltd 、Spring Thunder Entertainment、Huace Pictures, Co., Ltd.、Focus Film Limited
公式サイト:http://maru-movie.com/ourtimes.html