『スター・トレック BEYOND』はオリジナル版の魂を復活させた テンポ抑えた作風の意義

『スター・トレック BEYOND』が復活させた魂

 グローバルな価値観が浸透してきている現代社会において、特定の民族への差別・偏見は「悪」とされており、そのような思考は時代錯誤的だと言われても仕方がないというのは常識である。しかし、多民族が共生していく方向に社会が進歩する一方で、それについていけずに、より排外的に先鋭化していく流れが起きているのも事実だ。偏見を煽る政治家が人気を集めるアメリカや、EUを脱退したイギリスをはじめ、先進国のなかで多民族の共生にアレルギーを示す傾向が強まっている。

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 アジア系、ロシア系、アフリカ系、異星人の乗組員たちが、それぞれに個人の能力を発揮して危機を脱していくエンタープライズ号は、まさに他民族共生社会の理想的な縮図である。また劇中で、乗組員の一人がゲイであることが示唆されるように、性的なマイノリティーなど、そのなかでは多様な価値観も許されている。これは、オリジナル版で乗組員を演じた日系アメリカ人、ジョージ・タケイが、近年、同性愛者であることをカミングアウトし、LGBTの権利のため啓蒙活動を行っていることを受けての、本シリーズからの賛同の表明でもあるだろう。そして、過去への前時代的な「揺り戻し」現象について、本作はハッキリと "NO" を突き付ける。

 自身もアジア系であるジャスティン・リン監督は、『ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT』において、日本社会のなかで「ガイジン」と呼ばれ疎外される人々を描いた。そして、『ワイルドスピード』シリーズで活躍した韓国系アメリカ人俳優、サン・カンは、アジア系アメリカ人の地位向上のため活動を行っている。彼らは、同じアジア系として、差別と闘う同志なのである。現実社会に差別が存在することは事実だ。それを少しでも改善する力になりたいという意志が、本作を娯楽表現以上の意義あるものにしているのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。

■公開情報
『スター・トレック BEYOND』
10月21日(金)全国ロードショー
製作:J・J・エイブラムス
監督:ジャスティン・リン
脚本:サイモン・ペッグ、ダグ・ユング
出演:クリス・パイン、ザカリー・クイント、ゾーイ・サルダナ、サイモン・ペッグ、カール・アーバン、アントン・イェルチン、ジョン・チョー、イドリス・エルバ、ソフィア・ブテラ、ジョー・タスリム
配給:東和ピクチャーズ
原題:「STARTREK BEYOND」 
(c)2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:startrek-beyond.jp

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