スピルバーグが『BFG』で甦らせたテーマとは? 「夢」を通じて描く、創作者へのエール
心優しい巨人"BFG"を除く多くの巨人たちは、人間を食べ、眠り、遊びに興じてばかりいる享楽的な存在として描かれる。大人でも子供でも、現実に万人が思う「夢」であり「欲望」は、そのような利己主義的なものであることが多い。しかし、それだけでは満足できない者もいる。巨人のなかで唯一"BFG"だけは、他人に夢を見せるという、自分の得にならない作業を行っている。「夢」を混ぜ合わせ、新しい夢を作り上げるということが象徴するのは、まさに「創作活動」そのものである。読書をして妄想をするソフィーがやっていることもまた創作と同じ意味を持つものだ。そして、世の中に認められていない創作者にとって、そのような社会的に理解されず金銭につながらない作業は、毎日を生きるための仕事とは別に、「みんなが寝静まっている時間」にコツコツと孤独にやるしかない。
そのような創作者たちの心にあるのは、「いつか自分の作品を正当に評価してもらいたい」という願いだ。本作ではそれが、英国女王の信任というかたちで表れている。この作品で女王に謁見する場面が何より感動するのは、巨人や少女の隠された「願い」であり、多くの創作者たちに共通する「夢」が叶えられた瞬間が描かれているからである。
本作の脚本を務めたのは、『E.T.』や『トワイライトゾーン/超次元の体験』でスピルバーグ監督とタッグを組んでいる、メリッサ・マシスンである。病気のため亡くなり、惜しくも本作が最後の仕事となってしまったが、彼女の脚本は、原作よりもさらに創作の苦しみ、創作の素晴らしさが強調されたものとなっている。それは、彼女が物語作りに込めた想いや願いが、同じく「創作者」であるロアルド・ダールの遺したテーマと共鳴しているからであろう。本作『BFG: ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』は、自分の創造力を駆使して孤独に何かを生み出している全ての人を応援する作品として、優れた原作をまた新たに甦らせているのである。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』
2016年9月 全国ロードショー
全米公開:2016年7月1日
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:メリッサ・マシスン
音楽:ジョン・ウィリアムス
原作:ロアルド・ダール
出演:マーク・ライランス、ルビー・バーンヒル
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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