『ニンジャ・タートルズ』新作、なぜ中国で大ヒット? 中国企業のハリウッド出資事情の変化
8月26日から公開中の『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>』は、2014年に公開された『ミュータント・タートルズ』の続編。その名の通り、ミュータントな4人のニンジャ亀が、シュレッダー率いる悪のニンジャ軍団から世界を救うため戦う、SFアクション大作だ。前作に引き続き、『トランスフォーマー』シリーズでおなじみ‟破壊大帝“ことマイケル・ベイが製作を務め、宇宙人と子どもたちが冒険を繰り広げるSFジュブナイル映画『アース・トゥ・エコー』のデイヴ・グリーン監督がメガホンをとっている。さて、前作同様、複数の国と地域で初登場第1位を獲得した同作だが、際立って人気の国が例によって急成長をとげる中国である。約240億円の世界興行収入の40%(60億円)が中国での売り上げなのである。なぜここまで『タートルズ』は中国でウケるのか。
“媚びずに適応する”中国資本ハリウッド映画の変化
「マイケル・ベイ製作、中国で大ヒット!」といえば、『トランスフォーマー ロストエイジ』(14年)が記憶に新しい。同作は中国の放送企業・中国電影頻道の出資を受け、中国企業のプロダクトプレイスメント(出資会社の商品やロゴを広告として登場させる手法)を盛り込んだり、地元キャストに配慮したプロットを採用したり、上海ロケシーンを追加した“中国版”の上映を行った。こうした中国市場への配慮は「媚びている」と一部メディアに揶揄されることにつながっている。そして、『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>』にも、中国のメディア企業・アリババ社が出資を行っているのである。
ところが、本作にはこれまでの中国資本映画にみられた、いわゆる“中国びいき”がほとんど見られないのである。唯一、中国出身の女優ジェーン・ウーがキャスティングされているものの、ほぼカメオに近い扱い。宣伝担当者によれば、特殊な中国上映版のようなものも存在しないという。その代りというわけではないが、もともとオンライン・マーケットで成功したアリババは、その強みを活かしてWEBでのチケット販売や宣伝、マーチャンダイジングなどを行い、作品のクリエイティブ以外の部分で『タートルズ』をバックアップしているのである。中国のボーカロイド・洛天依によるタートルズMVがWEB上で閲覧可能だが、これがそういったプロモーションの最たるものだろう。アリババ社の同様の形でのハリウッド映画への出資は、『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(15年)から始まっている。“中国に媚びる”ハリウッド映画製作は、すでに形を変えつつあるのだ。
ビーバップ&ロックステディにクランゲ……旧アニメ版に近いファミリー向け映画に
中国に受け入れられたもうひとつの要因は、アニメ版のタートルズ(1987年アメリカ放送の『Teenage Mutant Ninja Turtles』、日本では旧亀版などと呼ばれる)が1990年代に中国で放送されていたことだろう。『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>』は、中国でも親しまれてきたアニメ版の軽快で能天気なテイストに明確に寄せて作られているのである。原作・アニメの人気キャラ・ロックステディ(サイのミュータント)&ビーバップ(イノシシのミュータント)の脳筋コンビがコントのようなやりとりをみせ、シュレッダーにこき使われる様子はアニメファンなら感涙もの。脳みそエイリアン・クランゲとアンドロイドボディの造形や、バクスター・ストックマン博士のマッドサイエンティストぶり、ホッケーマスクの自警男ケイシー・ジョーンズの熱血ぶりもそのままだ。タートルズの乗るタートルワゴンは、前作に比べオモチャ感の強いデザインに変更され、マンホール発射ギミックなどが追加されている。「異次元・ディメンションXから攻めてきた脳みそモンスターを友情パワーで撃退だ!」と一言で説明できるあらすじも単純でわかりやすい。さらには、マイケル・ベイイズムあふれるダイナミックなCGと、前作よりも忍者らしくアクロバティックなアクションをみせるフット団の戦闘員たちの登場など、映画らしい興奮にも満ちている。中国ではビッグバジェットのファミリームービーがヒットする傾向が強いが、みごとにその条件をみたしているのが本作なのである。