演劇、音楽ライブ、落語、歌舞伎……映画館で多様なエンタテイメントを“観る”メリット

映画館でコンテンツを多面化する意義

 もうひとつは、細部を捉えられることです。

 役者の瞳の動きとか、ピアニストの運指などは、生の場合、最前列あたりの観客ですら観られるかどうかわかりません。

 例えばお芝居で、息子の重大な告白を父親が黙って聞く、というような場面があったとしましょう。感情を剥き出しにして身振り手振り大きく話す息子。何も言わず動かず椅子に座ったままうつむき加減の父。静と動のコントラストで関係性を描くこの場面、父は肩を震わせている。観客は表情は見えなくとも、父が泣いているのがわかります。

 しかし、どう泣いているのか? 眉間にしわを寄せているのか、わずかに微笑んでいるのか。膝に置かれたその手は固く握られているのか、開いているのか。この違いで感情の描写をずっと繊細に複雑に行うことができるはずです。しかし、それは多くの観客には見えない。

 ですが映像なら、表情を、手の演技を、すべての観客に伝えることができます。

 舞台を観たときには、父は最後に息子を許したのだと思った。しかし映像に映る父は、こらえるように強く下唇を噛みしめていたのだった。この後、息子の肩にやさしく手を置いた、その行動とうらはらに、父はやはり最後の最後まで心の底からは息子を許すことはできなかったのだとわかる、というようなことがあり得るのです。

 このように解釈の相違が起こるほどではなくても、表情や身振りの細部が見えることで、人物への感情移入度はかなり高まります。音楽ならば、ミュージシャンのテクニックをはっきり見ることができたなら、曲への理解が変わります。

 生のステージの録画映像が、単に記録、あるいは劣化した代替物というのはでなく、表現足り得ることがおわかりでしょう。このことは、ひとつの作品に対して、観客は複数のアプローチが可能になるということでもあります。

 舞台を映画化するとかノベライズするという変換ではなく、舞台そのものでありながら観る手段を変えることでその作品の持つ別の側面を観られるという面白さ。“いわゆるメディアミックス”とは別次元のメディアミックスというものがもっと頻繁に行われるようになったら絶対に面白くなります。そこには新しいカルチャーだって生まれるはず。

 具体例をあげれば、ビョークはアルバムのコンセプトにしたがって、お台場の科学未来館でライブをしました。ステージ上部をぐるりモニターが囲み、強烈な映像演出がありました。そのライブの録画が(収録場所は別)、ライブハウスと映画館で上映されました。僕は科学未来館でこのライブを生で観て、映画館でも観ました。家でヘッドマウントディスプレイを使っても観ました。同じライブでありながら、映像と音楽(と空間)が複雑に形態を変えて交錯するわけです。それぞれに別の体感があって、非常に面白い体験でした。

 こういうこと自体は以前からあって、すごく新しいことだとは言えませんが、技術革新がクオリティを上げてコストを下げたこと、インターネットの発展が頭打ちになって揺り戻しで人々が“場”を求めるようになってきたことが、これからの発展の希望を感じさせます。

 あらゆるエンタテイメントが、混じり合って進化していく未来。You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

■公開情報
『ベルリン・フィル・イン・シネマ:サイモン・ラトル指揮“ベートーヴェン交響曲第4番と交響曲第7番” 演奏曲:ベートーヴェン交響曲第4番と交響曲第7番』
出演:サー・サイモン・ラトル(指揮)、ベルリン・フィル(演奏)
原題:Beethoven Symphonies No. 4&7
収録:2015年10月15日 ベルリン・フィルハーモニーにて
上映時間:約 85 分
5.1ch サウンド
上映場所:東京 YEBISU GARDEN CINEMA 7/23(土)〜7/31(日)
※ドキュメンタリー『リヴィング・ウィズ・ベートーヴェン』同時上映
公式サイト:https://www.culture-ville.jp/#!blank-1/v4hui

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