月9ドラマは電気羊の夢を見るか? 『好きな人がいること』の楽しみ方を指南

 それとは対照的に、『好きな人がいること』の桐谷美玲は、『ヒロイン失格』で得たコメディエンヌとしての自覚にさらに拍車がかかり、闇雲な自信に満ち溢れている。「オッケー、オッケー、私のこのキレイな顔で変顔してみせて、あとはジタバタドタバタしときゃいいんでしょ」といった感じである(もちろん妄想です)。第1話が始まって5分も経たないうちに、桐谷美玲演じるヒロインがレストランのトイレの個室に閉じ込められ(なぜか一緒に来ていた女友達は先に帰宅している)、トイレから救出してくれたイケメンのオーナー(三浦翔平)に「俺のやってる湘南のレストランで働いて、そこで一緒に住まね?」(本当はもっとちゃんとした台詞です)と誘われ、イケメン3兄弟との「奇妙な共同生活」が始まるにいたっては、その都合のよすぎるスピーディーなストーリー運びに唖然としながら画面を見つめるしかないのであった。

 映画好きというのは基本的にドMでバカだから、そんな局面においても、自分は考えましたね。「おっ、これはプレストン・スタージェスやエルンスト・ルビッチのハリウッド40年代スクリューボール・コメディへのオマージュか?」って。もちろんそんなわけはないですね。この『好きな人がいること』が空恐ろしいのは、物語の整合性なんかに目もくれず、とにかく近年のティーンムービーっぽいシーンや決め台詞だけが次から次へと飛び出してくるところ。枠組だけティーンムービーを借りていた『恋仲』とは正反対に、枠組をぶっ壊してでもエッセンスだけをポンポン詰め込んだ感じ。ほぼ同じスタッフが作っていることをふまえると、これが「作り手の成長」ということなのだろうか?

 先端テクノロジー系の話題でよく出てくるのが、「コンピュータに自動作曲は可能か?」という命題で、これはもう時間の問題として「可能だ」と言われている。『好きな人がいること』の第1話を見て思ったのは「これ、まるで最近のティーンムービーをデータ化して全部ぶっこんで、人工知能(AI)が作った恋愛ドラマみたいだな」ってことだった。『好きな人がいること』に自分がサブタイトルを付けるとするなら、「月9ドラマは電気羊の夢を見るか?」である。とりあえず、ある種のヤバさに満ちた作品であることは間違いないので、第2話も見ます。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)発売中。Twitter

■番組情報
『好きなひとがいること』
毎週月曜よる9時より放送
出演:桐谷美玲、山崎賢人、三浦翔平、野村周平、大原櫻子、浜野謙太、佐野ひなこ、飯豊まりえ、菜々緒、吉田鋼太郎、ほか
脚本:桑村さや香
プロデュース:藤野良太
制作:フジテレビ ドラマ制作センター

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