立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第5回

映画館は作り手の“情熱”をどう伝える? 『TOO YOUNG TO DIE!』極上音響上映の意義

 その後も何名かの作り手の方に直接監修していただきました。一例を挙げると『フラッシュバックメモリーズ3D』の時は山本タカアキさんに、「佐野元春 FILM NO DAMAGE」の時は坂元達也さんに、実写版「進撃の巨人」の時も音響制作チームにいらっしゃっていただきました。

 これらの中で最も話題になったのは「ガールズ&パンツァー劇場版」の岩浪音響監督率いる音響チームに立ち会っていただいたことです。戦車の駆動音や砲撃音が飛び交う今作と【極上爆音上映】の相性は素晴らしく、しばらくして本作のシネマシティの興行成績は全国1位となり、都市中心部ではない郊外の劇場としては考えられないほど大きな成功を収めました。…いや、うっかり過去形にしてしまいましたが、2015年の11月21日に公開した本作、シネマシティでは6月下旬現在なお上映中です(笑)

 あまりの大ヒットに岩浪音響監督のところには多くの劇場から「ウチでも調整してほしい」というオファーが舞い込んだとのこと。それを聞いて思わず拳を握りしめました。ようやく僕が作りたかった世界が実現したのです。

 作り手が再生の場に直接“命”を吹き込むことで、作り手と劇場の距離、ひいてはファンとの距離も接近するのです。それは何も“音”だけでなく“映像”でも“フード&ドリンク”でだって出来るはずです。

 その場にしかないものを生み出すこと。そのことがファンの足を劇場に向けさせます。それを劇場だけ、作り手だけでやるのではなく、力を合わせることでより強力なものにしていく。 

 もちろんすべての作品でこのようなことを成立させることは難しいでしょう。

 全国に何百館とある映画館すべてを作り手の方が回ることも不可能です。しかし、まずは一部からでも変えていくことは可能なはずです。

 事実「ガールズ&パンツァー劇場版」では、その後岩浪音響チームが何カ所も劇場を回って音響調整されました。その中には大手チェーン劇場も含まれますし、関東周辺だけでなく、兵庫県の劇場も含まれています。

 この作品は深夜アニメとしては大ヒットしましたが、それは“たまたまヒットした”ものではないのです。道は開かれたのです。

 ファンを感動させられるのは何も“クオリティ”だけではありません。クオリティはあるに越したことはないですが、それよりも人は“情熱”にこそ心打たれるものだという基本中の基本こそ、もっとも重要です。ただ上映するだけでなく、作り手の方も、劇場も、もっとどうしたらファンを楽しませられるか考え抜かなければ、やがて映像ネット配信などの簡便さと安さに敗北してしまいます。

 情熱ある作り手と情熱ある劇場が手を組んで「映画を映画館で観る意味」を少しずつでも創り出していく。ネットでは獲得し得ない“実感”を提供すること。映画の再生装置であること以上の“場”になれるようにすること。このアナログ回帰にこそ、僕は未来を感じています。

 You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:https://cinemacity.co.jp/

■公開情報
『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』
6月25日(土)全国ロードショー
監督・脚本:宮藤官九郎
出演:長瀬智也、神木隆之介、尾野真千子、森川葵、桐谷健太、清野菜名、古舘寛治、皆川猿時、シシド・カフカ、清、古田新太、宮沢りえ
配給:東宝=アスミック・エース
(c)2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation
公式サイト:TooYoungToDie.jp

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