『FAKE』はなぜヒットした? 配給会社・東風代表が語る、ドキュメンタリー映画の面白さと難しさ

東風代表・木下繁貴氏インタビュー

「会社を立ち上げた当時は、我慢大会みたいな感じでした」

高根:東風では『FAKE』のほかにも、意欲的なドキュメンタリー映画を数多く世に送り出しています。そもそもどういう経緯でこの会社を立ち上げたのですか?

木下:もともとバイオタイドという映像制作会社の配給宣伝部で働いていたメンバーが独立するかたちで、2009年3月に設立したのが弊社です。当時、バイオタイドで配給する予定だった岩淵弘樹監督の映画『遭難フリーター』が、本編の中で一部、NHKの映像を使用していたんですよ。そこで許諾を取ろうとしたところ、その映像の使用許諾の話ではなく、本編に出てくるNHKのディレクターが撮影の許可をしていないとのことで、内容証明が届いたんです。もちろん、撮影の許諾は取っていたので、説明しに伺ったところ、今度は「撮影の許諾をしていたかもしれませんが、上映の許可をしていません」と公開直前にもう一度内容証明が届いてしまって。当時、NHK問題などにも関わられていた日隅一雄弁護士(故人)に相談したら、映画はそもそも上映を前提に作られるものだから、NHK側の言い分ははねのけることができるとのことだったのですが、会社的にはやはりNHKとは問題を起こしたくないと。それで、上映を中止するか、該当部分をすべてカットして上映するか、もしくは外で勝手にやってくれと言われて、じゃあ外で勝手にやろうと思って東風を立ち上げたんです。上映の2週間前くらいの話で、登記までの期間がなかったため、合同会社というかたちになりました。当時の私はお金もなかったので、資本金は親から借金して工面しました。それから配給権を譲り受けて、NHKには内容証明への返信をして、なんとか上映には間に合ったんです。それでちゃんとお客さんが入れば、ずいぶんかっこいい話になったんでしょうけれど、興行的には散々な結果でした(笑)。だから、最初はいつお金がショートしちゃうかわからない状態で我慢大会みたいな感じでしたが、それから8年間、ドキュメンタリー映画を中心に配給や宣伝をなんとか続けてきました。

高根:ヒット作などに恵まれて、会社としてやっていけそうだと感じたタイミングはありましたか?

木下:いえ、特別に会社が潤うほどのヒット作はありません。しかし、そんなに大ヒットはしないけれど、きちんと興行として成立する作品をコンスタントに出し続けることができたので、お金のやりくりはできるようになっていきました。ドキュメンタリー映画の制作者とは以前より関わりがあり、独立前からすでに決まっていた作品もあったので、ある程度の予定を立てられたのが大きかったと思います。いまも決してそんなに儲かっているわけではなく、社員6名、アルバイト1名の計7名でようやくやっていける状況です。一応はちゃんとスタッフに給料を支払えているのは、代表として喜ばしいことですね。仕事が忙しいのは、別に辛いことではないですし。

高根:年間でどれくらい配給作品があるのですか。

木下:例年、8本から10本ぐらいですね。ニッチなジャンルをやっているので、映画祭で海外作品を買い付けたりすることもあまりないです。『コングレス未来学会議』などは、映画祭では評判になったものの、難解で他社があまり手を出しにくい作品でもあったと思うので、弊社で配給しましたが。基本的には、関係性の深い監督の新作を継続的にやっている感じです。

高根:制作費にもよると思いますが、ドキュメンタリー映画ではどれくらい入れば成功だといえるのでしょう。

木下:一概にいえる話ではないのですが、イメージとしては全国で1万人入ったら、興行的にはまあ良かったといえるのではないかと思います。もちろん、1万人では全く回収の見込みが立たない作品も当然ありますが、ひとまずクリアすべき規模はそれくらいです。

高根:上映会やソフト化、テレビ放送などの収益はありますか?

木下:ドキュメンタリー映画は、残念ながらテレビ放送にあまり向いていませんし、DVDなどのソフトの売れ行きも決して良いとはいえません。セルはともかく、レンタルは本当に厳しい状況です。ただ、社会性の高いテーマを扱う作品も多いため、上映会には向いていて、そこに非常に助けられています。たとえば、『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』という沖縄の辺野古のドキュメンタリーがあって、これは平和問題や沖縄基地問題などに関心のある人たちが上映会を開催してくださいますし、『みんなの学校』は、教育問題に関心がある、自治体とか行政も上映会を開催してくださいます。そういう広がりは大きいですね。

高根:確かにレンタルは単価/料率が低いですし、インディペンデント作品が収益を上げるのは非常に難しいと実感してます。一方で最近はNetlixなどのサブスクリプションサービスが増えてきて、中には秀逸なドキュメンタリーも少なくありません。東風としては、こうしたサービスをどう見ていますか。

木下:もちろん、Netflixなどで配信するメリットはあると思いますが、ドキュメンタリーには取材対象者の方との関係性もあるので、難しい部分もあると考えています。DVD化するのでさえ難しい作品もありますから。ただ、多くの人がドキュメンタリーに触れることができる環境が広がるのは、良いことですよね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる