ワンカットで2時間13分を撮りきった『ヴィクトリア』、その現代ドラマとしての迫真性

『ヴィクトリア』、ドラマとしての秀逸さ

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 このようなヴィクトリアのヒーロー性が、「ベルリンの一夜に若者が犯罪に手を染める」という現実でもありそうなストーリーに、ファンタジーめいた雰囲気を与えているのだ。そしてその浮遊感は、現代を生きる若者たちの魂を見つめているようにも感じられる。未来に目標や希望を抱くわけでもなくぼんやりと生きていた者たちが、特別な存在と触れることでそれぞれの役割を知って動き出す。しかし、それでも突き抜けられない、この息苦しいムード。まさに現代を生きる若者の心境そのままではないだろうか。監督のゼバスチャン・シッパーが望んだのは、生の空気を分解せずそのまま取り込むことだったのだ。その野心から生まれたワンショットの2時間強は、たしかに迫真性に満ちてすばらしい。でもその前に、たった今ベルリンに降り立った天使のように踊るヴィクトリアを捉えた美しい2分間にも同等の価値がある。

 

■嶋田 一
主に映画ライター。87年生まれ。

■公開情報
『ヴィクトリア』
5月、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:ゼバスチャン・シッパー
撮影:ストゥルラ・ブラント・グロヴレン
出演:ライア・コスタ、フレデリック・ラウ
音楽:ニルス・フラーム
2015年/ドイツ/140分/ドイツ語、英語/カラー/シネマスコープ
配給・宣伝:ブロードメディア・スタジオ
(c)MONKEYBOY GMBH 2015

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