映画『名探偵コナン』シリーズ、なぜ人気上昇? コアな映画ファンの立場から読み解く

『名探偵コナン』が良作となった背景

 案の定、予想外のオープニングだけでなく、それ以降の展開もこれまでのシリーズのイメージを覆すような場面の連続であった。まず何より、本作が推理映画ではなかったということだ。何人かのスパイが殺されるシーンはあっても、あくまでもサスペンスに徹している。しかも、明確な悪である黒の組織vs公安とFBIの攻防に加え、記憶をなくした黒の組織のメンバーの女性とコナンら少年探偵団の友情ドラマも織り交ぜるなんて、今更アニメーションを見縊る気は無いが、何て贅沢なアニメーションだろうか。

 そして水族館を併設したテーマパークをメインの舞台に据えて、大勢の群衆の中で行われる銃撃シーンは、さながら昨年の『ジュラシック・ワールド』でのディモルフォドンとプテラノドンの襲撃シーンを思い出させるほど緊迫したパニック映画の様相を呈していた。極め付けはクライマックスの観覧車脱輪シーンだろう。つい先日大ブームとなった『劇場版ガールズ&パンツァー』でもオマージュされた『1941』のオマージュを、またしても観られるなんて実に楽しい。

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 元々シャーロック・ホームズを中心とした、往年の探偵小説への敬意を込めた作品とはいえ、改めて考えてみれば探偵だからといって推理で事件を解決するのが決まり事では無い。本作のように、大きな事件に巻き込まれながら、知性を駆使して黒幕と対峙していく姿というのは、探偵を主人公にしたノワール映画にはつきものなのだ。特に、ラストでコナンが発する台詞は、ジョン・ヒューストンの『マルタの鷹』のラストの台詞を思い出させるだけに、この映画が子供も大人も楽しめる定番娯楽映画だけでなく、コアな映画ファンの心も掴むフィルムノワールの側面も備えているということだろう。

 ゴールデン・ウィークが終わり、いざ興行成績を見てみれば、順位こそ『ズートピア』に抜かれたとはいえ、シリーズ最高の興収50億円を突破し、まだまだ興行は続く。20年目にして、これだけのクオリティの作品へと進化を続けているのであれば、大いに納得できる成績だし、来年以降もまた楽しみになってくる。もし『名探偵コナン』を観始めるタイミングを窺っている人がいるならば、今年は絶好の機会である。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『名探偵コナン 純黒の悪夢』
公開中
原作:青山剛昌「名探偵コナン」
(C)2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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