坂本龍一が語る、映画『レヴェナント』の本質 「“自然の視点”こそが本当のテーマ」
「僕らの予想を越えた楽しみ方をしてくれるのも面白い」
ーー作曲は、ある程度完成した映像を観てから始めたのでしょうか?
坂本:本当は完成した映像を観て作るのが理想的ですが、今回は作品がどんどん変化していく中で作曲しました。コンピューターのOSにたとえると、バージョン0から始まって、最終的には8.5くらいまでいったのですが、その間に新しい場面が付け加えられたり、順番が入れ替わったり、場面が消えたりするわけです。仮に作り終えた音楽だったとしても、映像にあわせて再度調整する必要があるので、その調整と新たに生み出す作業を同時に行っていました。調整に手間をかけていたら、新しい音楽を作るための時間がなくなってしまうこともあって……よくあることですが、今回も大変な作業でしたね。
ーー最後に、坂本さん自身の映画の楽しみ方やコツを教えてください。
坂本:映画の楽しみ方は自由なものであって、どんな楽しみ方をしてもらっても良いと思います。こうした方が良いということは言えないし、むしろ僕も教えてもらいたいですね(笑)。たとえば、ずっと目をつむって観ても良いし、ずっと耳を塞いで観ても良い。僕らの予想を越えた楽しみ方をしてくれるのも面白いと思います。ただ、スクリーンに映っているものだけが映画ではなく、映っていないところに何百人ものスタッフがいて、ありとあらゆる技術が使われている。もしカメラに興味があるのであれば、映像のつながりやカメラの動きを観察したり、物語に興味があれば脚本の書き方を考えてもいい。そのほかにも、音や演技などに着目するのもいいでしょう。それを統括するのが監督で、すべてを理解しながら、アイデアを出しながらリードしていく。ものすごい知識と総合的な能力が求められる役割なので、そこを考えながら見るのも楽しいのでは。僕も『シェルタリング・スカイ』という映画の音楽を作っていた時、ふとカメラの動きを追いかけるようになって、そこから映画がまったく別のものに見えるようになった。寄りや引きのカットひとつにしても、そこには映像監督と監督による独特の決断があって、どのタイミングにどのくらいの時間をかけて、どのアングルから撮っていくのか、すべての動きに意思が込められていて偶然はない。そこには実に深い哲学を感じることができるから、映画を読み解くのは奥深いものだと僕は思います。
(取材・文=泉夏音)
■公開映像
『レヴェナント:蘇えりし者』
4月22日(金)TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディほか
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公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/revenant/