サブプライムローンとは何だったのか? 『マネー・ショート』が示す投資家の倫理

『マネー・ショート』が示す投資家の倫理

投資家が持つべき倫理観とは

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スティーブ・カレル

 マーク・バウムは実際に現地を調査することで、この「奥行き」に気づいた。「このツケを払わされるのは一般市民だ」をマークは投資家に向かって言い放つ。

 ブラッド・ピット演じるベン・リカートは、野心溢れる若い2人の投資家に、米国金融市場の崩壊に賭けることのリアリティを説く。市場崩壊は多くの人が家を失うことを意味する。そのリアリティを想像せずに浮かれるな、と。事実、リーマンショック後に家を失った人は全米で600万人にも及ぶ。「ドリーム ホーム」が描くように、銀行に家を差し押さえられ、狭いモーテルの一室に暮らさざるを得なくなった人たちがたくさんいたのだ。ベンはこの投資行為にそんな奥行きを見ていた。ベンの真摯な姿勢は本作全体にも通底している。2007年に入り、彼等の勝利が見えてきても、その美酒に酔いしれようとする者はいなかった。彼らは自らの勝利のその奥に数多の悲劇をあることをも見えてしまったからだ。

 なぜ多くの銀行家や投資家は近視眼的に高騰し続ける住宅市場にしがみつき続けたのだろうか。ライアン・ゴズリング演じる銀行家、ジャレッド・ベネットは「彼らは不正をしているが、それはバカの成せる業だ」と言う。バカになることと、「奥行き」を見ないことに違いはあるだろうか。彼らが賭ける巨額のマネーの向こう側に数多の人生があるのだとすれば、そのリアリティを知ることは投資家としての倫理観にも繋がる話ではないか。

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勝者なき「華麗なる」逆転劇

 本作のパンフレットのインタビューで、アダム・マッケイ監督は本作のモデルとなった人物たちとも食事をともにした時の印象をこう語っている。

「全員と夕飯をご一緒しました。もちろん別々にね(笑)。すごくためになりまたよ。というのも、彼ら全員がいまだに当惑してるって感じが見受けられたんです。あの人たちは、金融市場を本気で信じて、市場がちゃんと機能してると思ってたわけです。ところが、金融システムは想像を絶するほどに腐りきってた。多くは業界から足を洗いました。残った人も、ビジネスを縮小したりしました。みんな、それなりに打撃を受けたんです」

 本作の勝利者もまた、信じたものに裏切られたのだ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
3月4日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット
脚本:チャールズ・ランドルフ、アダム・マッケイ
原作:マイケル・ルイス「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」(文春文庫刊)
配給:東和ピクチャーズ
原題:「THE BIG SHORT」/2015/アメリカ
(C)2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.  
公式サイト:http://www.moneyshort.jp

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