高根順次「映画業界のキーマン直撃!!」Part.03

『恋人たち』プロデューサーが語る、“作家主義の映画”を成功させる方法

左から、深田誠剛氏と小野仁史氏

 スペースシャワーTVにて『フラッシュバックメモリーズ3D』、『劇場版BiSキャノンボール』、『私たちのハァハァ』などの話題作を手がけてきた高根順次プロデューサーが、映画業界でとくに面白い取り組みを行っているキーマンに、その独自の施策や映画論を聞き出すインタビュー連載「映画業界のキーマン直撃!!」。第3回は、2015年に数々の映画賞を総なめにした橋口亮輔監督の最新作『恋人たち』のプロデュースを手掛けた、松竹ブロードキャスティングの深田誠剛氏と小野仁史氏を直撃。同作に取り組んだ経緯のほか、現在の映画業界にて「作家主義」の作品を生み出す意義や、それを実現するためのアイデアを聞いた。(編集部)

深田「監督の“作家性”を重視したかった」

 

高根:松竹ブロードキャスティングで『恋人たち』を制作することになった経緯を教えてください。

深田:私は4〜5年前に松竹株式会社の映像企画室にいまして、プロデューサーをしていたんですけれど、自分の企画が進まなくて追い詰められていたんですね。やりたい企画と、会社の方向性に大きなズレもあった。当時の仕事では、作る映画の規模が最初からある程度決めらていて、たとえば製作費と宣伝費がいくらなら、興行収入がいくらという感じで企画を考えなければいけなかった。そうなると、原作がどれだけ売れていて、起用する役者にどれだけ人気があって、テレビ局や広告代理店からはどれだけ出資を受けられて……ということが映画や脚本の内容よりも優先されるわけです。私自身は映画を観る時、監督の作家性を楽しみたいと思っていたタイプだったので、そうした映画作りの考え方に疑問を抱いていたのですが、そういう疑問をもってしまうと、仕事が立ち行かなくなるんですよね。これ以上この職場にいても迷惑だろうと、会社を辞める準備をしていたところ、松竹の迫本社長から呼び出されて、正直に自分の考え方や悩みを語ったところ、「本社ではできないなら、グループ会社でできる環境を作ってみては」とアドバイスされました。そこで、かつて出向していた松竹ブロードキャスティングに、自分の理想とする映画作りの企画をプレゼンしたんです。

高根:その企画が橋口亮輔監督のものだった?

深田:はい。ちょうどその頃、橋口さんはワークショップをやっていて、その授業の中でつくった『ゼンタイ』(2013)という超低予算映画がやたらと面白かった。新しい映画の企画として、ワークショップを絡めるのはありではないかと思ったきっかけも『ゼンタイ』でした。その編集を松竹ブロードキャスティングの小野くんがしていたこともあり、私の新しい映画作りの企画にについて相談しました。小野くんにいろいろなアイデアを出してもらったり、松竹ブロードキャスティングに提案する企画書をPowerPointで作ってもらったりしているうちに、一緒にやるならこの人と思うようになりました。半年後くらいに企画が通り、二人だけの部署を立ち上げることになりました。沖田修一監督の『滝を見にいく』(2014年)もその流れで作った作品です。

小野:低予算なのでお金はかけられないけれど、その分、橋口さんには好きな作品を撮って貰う方向で進めることになりました。『ゼンタイ』の編集は、完全にプライベートで引き受けていたけれど、やっぱり橋口さんと一緒に、ちゃんとした長編の劇映画を作ってみたいという気持ちもあって。松竹ブロードキャスティングの現社長である井田寛も、この企画には前向きでいろいろなアドバイスをくれました。

高根:でも、たとえば1000万円規模の低予算で作ったとしても、製作費や公開宣伝費などを含めるとすぐオーバーしてしまうものだし、インディーズ映画でペイするのは簡単なことではないですよね。

小野:どうやって回収していくかは、もっと勉強しなくてはいけないところで、大きな課題です。かつてATG(日本アート・シアター・ギルド)は1000万円で作っていたという話を聞いて、我々もその規模感でやってみようとしたのですが、実際はすごく難しくて。

高根:『恋人たち』のクレジットを見たら、文化芸術振興費補助金があったので、結構かかったことはわかりました。

小野:もう、それで察していただければ(笑)。最初に台本が出きてきた時点で、1000万円では済まないことはわかりましたが、会社に相談したら「橋口さんが心を込めた脚本を作り上げたわけだから、多少オーバーしてもやりましょう」という判断になったんです。でも、実際には多少のオーバーでは済まなかった。

深田:最初は本当に低予算で『ゼンタイ2』みたいな企画だったんですよ。でも、話が進むにつれてどんどん大きくなって、想像していた予算の範囲では全然収まらなかった。だから回収は不可能だと思っていたんですけれど、おかげさまで色々な幸運が重なりまして、なんとか目処が見えてきたところです。

高根:『恋人たち』は去年の映画賞を総なめしましたからね。でも、こういう作品は年に1本か2本あるかないかで、邦画はいま年に600本くらい公開されているから、当たる確率としてはすごく低い。本当はこういうアート系の作品がちゃんと作っていける仕組みを構築しなくてはいけないと思うのですが。

深田:文化庁の助成金って、5000万円以上かかる作品じゃないと下りないんですよね。橋口さんの作品はそこまで辿り着いているんですけど、大体の作品はもっと小規模なので、助成金をあてにできない。1000万円規模の作品に対しても助成金を出してくれるようなシステムがあれば良いのですが。

高根:文化庁としては、国が税金を投入する対象としては規模が小さすぎるという考え方なんですよね。でも、ロー・バジェットの作品でも1億近くの興収を上げる可能性はあるわけで、規模だけで判断するのはどうなんだろうと思います。

小野:いまは映画館で作品を上映するのに、配給会社がデジタル設備費の一部を支払うVPFという制度があって、インディーズ映画を上映するための金銭的なハードルが上がっているという問題もあると思います。劇場公開することに対しての助成金があると、もっとこうした作品が作りやすくなるのですが。

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