『恋人たち』プロデューサーが語る、“作家主義の映画”を成功させる方法

『恋人たち』プロデューサーインタビュー

深田「確実に売れるものを作ることも、すごく重要なこと」

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高根:例えばメジャーの映画会社の考え方として、5億で作って15億の興行収入を狙うというのが王道かと思いますが、現実的なビジネスとして考えた時に、そういう考え方になるのだと思います。ただ、うまく予算配分をして、『恋人たち』のような作品もコンスタントに生み出していくことができないかと思っていて。松竹ブロードキャスティングさんにはその辺の理解があるのでは。

深田:理解があると思います。トップの人間が違う考えだったら、『恋人たち』は形にはならなかったでしょう。予算がどんどん膨れたにもかかわらず、続けさせてくれたときにそれを痛感しました。それと、二人のプロジェクトだからうまく行った面もあると思います。やっぱり船頭が多いと物事はうまく運ばないもので、映画のプロデュースでは身内で方向性がぶつかって頓挫するケースが多いです。

高根:昨年だと、是枝裕和監督の『海街diary』がヒットしましたよね。あの作品は是枝さんの作家性を保ちつつ、テレビ局と組んで、キャスティングには大スターを起用しています。是枝さんなりにシステムと戦って勝ち得た方法論で、ひとつの正解でもあったと感じました。お二人はどう見ていますか?

小野:我々からすると遥か上のステージの作品で、意見できる立場じゃないのでなんとも(笑)。ただ、映画監督にはその時にキャスティングしたい人が必ずいるもので、橋口監督も今回、リリー・フランキーさんや光石研さん、安藤玉恵さんなどを、ご本人の希望でキャスティングしています。だから、是枝監督もあのキャスティングを望んでいたんじゃないかという気はするんです。そのことに不自然さは感じないし、作品もちゃんと評価されて素晴らしいと思います。ただ、我々の予算では不可能なことだし、あれだけのキャストを集めるとなると余計にスケジュールがタイトになるはずなので、ちょっと別世界の話かな、と。

深田:作家の人にとっては多分、理想的な仕事の在り方だとは思います。ただ、それに伴う大変さは必ずあるわけで、私なんかは想像しただけで気が遠くなってしまいます(笑)。無名の俳優を起用すると、芸能界のいろいろな煩わしさとは無縁なので、そういうところも良いんですよ。

高根:スポッテッドの直井卓俊さんも、メジャー作品に伴う様々な煩わしさにとらわれるより、自分の中で解決できる範囲で面白い作品を作りたいと言っていました。(参考:「インディーズは常に死と隣り合わせ(笑)」SPOTTED PRODUCTIONS直井卓俊氏に訊く

小野:そこばかりはどうしようもできないし、すごく労力もかかるポイントですからね。ポスターで役者の名前の並び順を決めるだけでも、非常に大変だと聞きます。

深田:でも、芸能寄りの作品が悪いかというと、そう考えているわけではなくて。マーケティングを徹底的にやって、確実に売れるものを作るというのも、会社としてはすごく重要なことですし、それを求めるお客さんだってたくさんいます。だから、全否定するわけじゃないけれど、やっぱり今は中身がおざなりになった作品も多いと言わざるを得ない。うまく両立した作品が増えると良いと思っていて、実際に多くのプロデューサーも、ちゃんと中身も伴った作品にしようと努力しています。たとえば『ソロモンの偽証』などは、宮部みゆきの原作で成島出監督が手がけて、中身も妥協しないように脚本に時間をかけて撮ったんです。一方でキャスティングは冒険して、無名の俳優を起用していて、実際に良いものができた。その作品は興行的には失敗してしまったんだけれど、そこで諦めているわけではない。今後はしっかりマーケティングしながらも、クオリティの高い作品が生まれていくんじゃないかと思います。

小野:たしかに『桐嶋、部活やめるってよ』なども、きちんとマーケティングしながら作品としての質も追求していた印象です。こちらも実際に良いものができて話題にもなって、キャストがブレイクした。そうした作品から新たにスターが生まれるというのは、実りある形ですね。

高根:ただ現状だと、スターを起用するとスケジュールはもちろん、場合によっては脚本の内容についてまで制約が出てきてしまう。

深田:相手が大物だと編集からやり直しさせられたりすることもあると聞きますね。

小野:加えて、メジャー映画だと関わる人数も多いから、監督の方向性とどんどんズレが生じるという問題もありますよね。我々の場合は、規模が小さいので制作から公開まで関わりましたが、大作映画は工程ごとに細かく分業されていて、最終的に大勢のスタッフが携わるようです。そうなると、後半の工程で関わるスタッフーーたとえばパンフレットの制作者などは、現場に行っていない状態でそれを手がけるわけで。宣伝の人なんかは、いきなり「こんな映画ができました、宣伝してください」と頼まれるのだから、想いを込めるのが難しいのではないかと。作品ごとにきちんと垂直統合して、映画完成後に活躍するスタッフにも現場の前から入ってもらうのがベストだし、そういうことが作品のカラーに繋がっていくと思います。「この人たちが作ると、こういうものになるんだ」っていう。そうなれば、たとえば公開や宣伝にも、新しい方法が生まれてくるんじゃないかなと。

高根:プロデューサーの手腕も問われそうですね。

小野:プロデューサーというと、資金集めと調整役や責任者というイメージでしたが、実際にやってみると、それだけやるのではダメだと感じました。たとえば監督だって、最近は自分で編集するタイプの人が多い。木村大作監督の現場では、美術さんがサブのカメラを回すこともあったそうで、そういう風に専門外のこともできることが、小規模作品では、より重宝されていくんじゃないかと思います。それはプロデューサーも同様で、自らが二足、三足の草鞋を履いてこそですし、特に低予算映画では必須かと。

高根:宣伝はひたすら宣伝だけやる、という形ではなくて。

小野:どのスタッフも専門以外もできるのが理想と感じました。私も『恋人たち』で、「次の作品があるから、はい終わり」という感じの関わり方をしていたら、とっくに別の現場に回されていて、このインタビューも受けていなかったと思います。でも、幸運なことに最初から最後まで関わらせて貰ったので、いまも配給していますし、そうしたことでわかったこともたくさんあります。高根さんも、最初から最後まで作品に関わるプロデューサーですよね。

高根:僕も『フラッシュバックメモリーズ 3D』の時は、DCPのコピーからパンフレットの編集までやりましたね。たしかに、そうすることで見えてくるものはあります。予算の配分も、全体を見ながらチェックするとすごく無駄な部分があったりして。

小野:そうなんです。これは無駄だから、その分を宣伝に回そうとか、差配できるんですよね。たとえばスポッテッドさんの作品はやっぱりカラーがはっきりしているけれど、それは直井さんが宣伝から配給まで“縦”で取り組まれているからだと思います。そういう作品への関わり方、制作の仕方が増えていったら、いろんなラインができて、結果として面白い映画が増えるんじゃないかって考えています。

■高根順次
スペースシャワーTV所属の映画プロデューサー。『フラッシュバックメモリーズ3D』、『劇場版BiSキャノンボール』、『私たちのハァハァ』を手掛ける。

■公開情報
『恋人たち』
原作・監督・脚本:橋口亮輔(『ぐるりのこと。』『ハッシュ!』)
主題歌:「Usual life_Special Ver.」明星/Akeboshi
出演:篠原篤 成嶋瞳子 池田良 / 安藤玉恵 黒田大輔 山中崇 内田慈 山中聡 / リリー・フランキー 木野花 光石研
宣伝:シャントラパ/ビターズ・エンド 
配給:松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ 
製作:松竹ブロードキャスティング
©松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ
公式サイト

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