『マジカル・ガール』カルロス・ベルムト監督インタビュー
増村保造、三島由紀夫、『ドラゴンボール』……『マジカル・ガール』監督が語る、日本文化からの影響
「非常に複雑な物語なので、単純な構図にしたかった」
ーー今名前が挙がったペドロ・アルモドバル監督は、今回の作品にコメントを寄せていますが、交流はあるんでしょうか?
ベルムト:アルモドバル監督に関しては、映画を観てもらいたくて招待したら、観に来てくれたんです。もともと自分がファンだったこともあり、ドキドキしてなかなか話しかけられなかったのですが、上映後、アルモドバル監督が私のほうに来て、「ちょっとトイレに行ってくる」と言ったんで、「ああ、ダメだったんだな」と思って諦めたんです(笑)。けど、外に出るとアルモドバル監督がいて、「すごく好きだ」って言ってくれて、電話番号をくれたんです。そこから話をしたり会うようになったりしましたね。増村保造や武満徹の映画の話を2人でしたりして、新しい発見などもあり、非常にいい関係が築けています。次の新作はアルモドバル監督に製作してもらうことになりました。
ーーそうなんですね! 日本からの影響でいうと、長山洋子さんの「春はSA-RA SA-RA」が非常に印象的な使われ方をしていますが、この楽曲の使用の経緯はどういう流れだったのでしょうか?
ベルムト:最初、「魔法少女ユキコ」のテーマ曲になるような音楽を探していたんです。そのような経験があるスペインの作曲家や音楽家に頼もうかとか、グループを探そうかとか、いろんなオプションがありました。ただやはり、ここでも予算や製作日程の問題に直面しました。また、スペイン人に頼んで日本っぽい音楽ができても、日本のものでないとリアリティがないと思ったので、ネットで80年代〜90年代のアイドルの曲をたくさん調べて聞いて、その中から選びましたね。
ーーシーンが移り変わるときの“間”が通常の映画と比べて長かったのが印象的でした。
ベルムト:“間”というコンセプトがとても好きなんです。言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、時間の中にある空間だと私は思っています。それは今も研究し続けているのですが、例えば、ひとつのシーンが終わって次のシーンに移るときというのは、機械的ではなく、物語がそこでどう動くかを最も含める箇所だと思うんです。日本はやっぱり“どう語るか”をすごく詳細に決めるので、その語り方に近いと思います。そういうことを意識して映画を作っている部分もありますが、これだけ日本文化に浸ってきたので、もしかしたら無意識に出ているかもしれませんね。
ーー撮影で意識したことはありますか?
ベルムト:撮影において、まず一番最初に意識したのは、構図です。フレーム内に人がいるという、非常に単純な構図になっています。構図については、私自身常に気にしている部分です。今回は、物語が非常に複雑なので、絵自体は非常に単純な、簡潔なものにしたかったんです。何台もカメラを置いて、いろんなアングルで撮るようなことはしたくなかった。単純な構図でシーンを明確に分かるようにして、あとは物語の複雑性をどのように映像として出すかというところにこだわりました。
ーーすべてが描かれずに“謎”のまま残る部分も多くありますね。
ベルムト:今回の作品の場合、脅迫が接点になって人が繋がっていくということなので、その人たちの人生がどう変わるのか、運命がどうなっていくのかという、非常に単純なことが重要だと思うんです。だから、無駄を省きたかったんです。必要のないものは入れないということを、一番最初に決めていました。例えば、ダミアンとバルバラの関係など、この映画の中で描かれないのは、過去のことなんです。これは彼女たち2人だけの映画ではなく、もっといろいろな人たちが絡んだ群像劇でもあります。誰かに偏った映画にはしたくなかったので、平等に描くように心がけ、無駄なことはすべて省きました。バルバラが部屋の中で何をされているのかについても、説明すればするほど恐くなくなってしまうので、謎のまま、皆さんの想像力に任せています。“謎”が一番恐ろしいものだと思いますね。
(取材・文=宮川翔)
■公開情報
『マジカル・ガール』
3月12日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー
監督:カルロス・ベルムト
出演:ホセ・サクリスタン、バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ、ルシア・ポジャン
2014年/スペイン/カラー/127分/シネスコ
配給:ビターズ・エンド
Una produccion de Aqui y Alli Films, Espana. Todos los derechos reservados(c)
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/magicalgirl/