「喫煙シーンのある映画」へのWHO勧告をどう捉えるか 小野寺系が映画史を踏まえつつ考察

 世界保健機構(WHO)は2月1日、喫煙シーンがある映画について、若者たちを喫煙に誘導しているとした報告書を発表した。報告書では、タバコ広告の規制が強まる一方で、映画には規制がなく、何百万人もの青少年を喫煙に晒す危険があるとし、喫煙シーンがある映画やドラマについて、年齢制限を設けることや、上映前に喫煙に反対する警告を入れるよう、各国に勧告した。

 日本国内でもこのWHOの発表は大々的に報道され、Twitterでは「#WHOがなんか言ってるけどカッコいい喫煙シーン載せる」というハッシュタグとともに、喫煙シーンが印象的な映画のワンシーンの画像が拡散されたり、映画を本業とする監督・俳優たちからもWHOの発表に異議を唱える声が多数上がった。

 このWHOの勧告は、どのような背景によるものなのか。映画評論家の小野寺系氏に話を訊いた。

「今回、WHOが発表したのは勧告ということなので、まだ各国がどのような対応をするのかは分からない状況ですが、“アメリカでは新たに喫煙を始めた若者のうち、37%が映画での喫煙シーンからの影響だった”“2014年に公開されたハリウッド映画のうち、44%に喫煙シーンが含まれていた”というWHOが発表した具体的な調査結果からみて、ハリウッド映画をターゲットにしていることがわかります。そのハリウッドでは、米ウォルト・ディズニー社が以前から喫煙シーンを排除する方針を打ち出していました。『ウォルト・ディズニーの約束』(13)という『メリー・ポピンズ』の製作背景を描いた映画では、ウォルト・ディズニー自身が愛煙家だったにもかかわらず、喫煙シーンが排除されていました。タバコの煙の映像など、喫煙を匂わせるシーンはありましたが、会社自体がそういう方針になったので、ディズニーのその他の作品などでも喫煙シーンは描かれず、演出家たちが窮屈な思いをしているのは感じていました」

 喫煙シーンは映画の内容にも関わる重要な要素だと、同氏は指摘している。

「まず、タバコは小道具として役に立つというのがあります。タバコの煙がブワーッと立ち上がるときの模様など、煙が動いていくことによって、映画自体が華やかになります。空間の中だと、人物と人物の間で煙が動くことで、人物間の距離や、空間の充実さが立体的にわかる効果があります。また、タバコは役者が演技している時のバックアップとしても機能します。役者が映画の中で演技をするとき、何もしないでいるのと、タバコを持っているのとでは、だいぶ印象が違います。例えば、立っている時の演技では、何にもしないでただ立っているよりも、タバコを吸うという動作があるだけで、表現の幅が広がります。そういう意味では、映画にとってタバコはすごく重要なアイテムだと言えます。また、登場人物の精神的な繋がりを示す場合もあります。フランス映画『さらば友よ』で、アラン・ドロンがチャールズ・ブロンソンに火を貸すシーン、ハワード・ホークス監督の名作『脱出』での、ローレン・バコールのタバコにハンフリー・ボガートが火をつける描写など、その動作だけで、彼らの精神的なやりとりが、言葉を使わずに伝わってきます。あとはやっぱり、かっこよさですね。実際にかっこいいという理由で真似る人はいると思います。私自身は非喫煙者ですが、やっぱりタバコを吸う主人公はかっこいいって思ってしまいますから」

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