立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第1回

映画館はネット配信にどう対抗する? 『ヘイトフル・エイト』極上爆音上映の狙い

 営業終了後の深夜、国内屈指の音響家に依頼し、朝までかけて音を磨いていく。ムダにお金を掛けてあったおかげで(笑)、シネマシティのシステムには音響調整卓が組み込んであるために非常に細かく調整が可能で、備えつけてあるmeyer sound社の映画用というよりは音楽用のスピーカーは、ライブハウスや音楽ホールのような音を鳴らしてくれました。仕事中にも関わらずスクリーンが涙でにじんだことで、僕は成功を確信しました。

 この特別な音響の上映は、ファンのみなさんに驚くべき熱狂で迎えられ、日本全国からお客さんが集まりました。身体の芯を震わせるバスドラムやベースの重低音、空から舞い降りてくるような澄んだ歌声。それらを耳からだけではなく、肌や胸の奥で聴く幸福。音楽が空間すべてに充ち満ち、そこにいるファンの思いもまた、音に乗って共振し共有されていくのです。

 スマホやタブレットとどう戦っていくか。幸運なことに、シネマシティはその答えのひとつを手にすることができたのです。そう、それは「愛」です。

 それから7年が経ち、シネマシティの名前はとても多くの映画ファンに知っていただくことができました。そのおかげで『ヘイトフル・エイト』の極上爆音上映は配給会社のGAGA様より快諾をいただき、極爆試写会も開催することができました。

 大爆発もなく、巨大な生物が出てくることもない、ファンなら『レザボア・ドッグス』を想起する密室ミステリーで、なぜ極爆か? 繊細にバランスよく調整された音は、モリコーネの最高にクールな音楽はもちろん、吹雪に降り込められたロッジの閉塞感や名優たちの渋いバリトンヴォイスを美しく描き出すのです。また大音量にすることで、微細な音が鮮明になり、暖炉の炎のはじける音や床の木の軋みがリアリティをいや増します。そのことで思わず作品世界へ没入してしまい、そのうち音響のことなんか忘れてしまう。それこそが最大目的です。

 さて、そのつかんだ答えを、どう活かしていくのか? 僕の挑戦は続きます。You ain't heard nothin’ yet!(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

■公開情報
『ヘイトフル・エイト』
2月27日(土)全国公開
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
音楽:エンニオ・モリコーネ 
美術:種田陽平
出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンス、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセンandブルース・ダーン 
配給:ギャガ
原題:The Hateful Eight/2015/アメリカ映画/168分
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公式サイト:http://gaga.ne.jp/hateful8/top/index.html

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