ムロツヨシの真骨頂は“切り替えの速さ”にアリ? 『悪党たちは千里を走る』に見る役者としての実力
そこで大きな役割を担っているのは、高杉の相棒・園田役を演じる山崎育三郎、謎の女・菜摘子を演じる黒川芽以という共演者たちの存在だ。貫井徳郎の同名タイトルの小説を原作としつつも、細かな設定に変更を加え、高杉・園田・菜摘子という3人の会話劇となるようアレンジされた脚本。高杉(黄色)・園田(緑)・菜摘子(赤)といった具合に、そのアンサンブルが映えるよう明確に定められた衣装ともども、「誘拐犯」の濡れ衣を着せられたこの3人が、謎の「犯人」からの要求に、チームとしてどう対処しながら、ことの真相に辿り着いてゆくのか。それが、このドラマの「肝」なのだろう。
ミュージカルや舞台で活躍し、初の本格的な連ドラ出演となった『下町ロケット』の好演で評価を高めた山崎育三郎。そして、28歳にして芸歴20年を超える演技派であり、近年は「キレイなお姉さん」役もすっかり板についてきた黒川芽以。主演のムロツヨシをはじめ、舞台経験も豊富なこの3人による小気味いいセリフの応酬は、観るものを飽きさせない。ただし、その展開の速さと会話のテンポ感によって忘れそうになるけれど、このドラマ、第1回の時点で、実は大小様々な「謎」が散りばめられていることも指摘しておくべきだろう。というか、当たり前のように高杉たちと行動を共にするようになった「菜摘子」とは、そもそも何者なのか? そして、園部の嫁が高杉の元カノという設定は、今後物語にどう影響していくのか。さらには、一瞬挿入された高杉の15年前の回想シーン。彼が自主制作した映画に好感を持った少女……高杉の心の拠り所となっている少女とは、果たして何者なのか? そして、何よりも「ジョン・レノン」を名乗る犯人の正体とは? さまざまな謎を撒き散らしながら猛スピードで走り始めたドラマ『悪党たちは千里を走る』。それは一体、どんな結末を迎えるのだろうか? そして、そのときムロツヨシ演じる高杉は、そして3人の関係性は、どんなふうに変化を遂げているのだろうか? コメディリリーフとしての役割から、物語を推進する主人公へ。ムロツヨシのキャリア的にもひとつの転換点となるであろう本作に、引き続き注目したい。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「CUT」、「ROCKIN’ON JAPAN」誌の編集を経てフリーランス。映画、音楽、その他諸々について、あちらこちらに書いてます。
■ドラマ情報
『悪党たちは千里を走る』
毎週水曜日23時53分〜TBS系で放送中
出演:ムロツヨシ、山崎育三郎、黒川芽以、光石研、紺野まひる、堀部圭亮、大西利空、林みなほ(TBSアナウンサー)
原作:貫井徳郎
脚本:渡邉真子
音楽:木村秀彬
プロデュース:池田克彦
演出:岡本伸吾 田中健太
製作著作:TBS
番組公式サイト:http://www.tbs.co.jp/akuto2016/