ムロツヨシの真骨頂は“切り替えの速さ”にアリ? 『悪党たちは千里を走る』に見る役者としての実力

 気がつけばドラマや映画、バラエティー番組などで目にする機会がすっかり多くなった俳優、ムロツヨシ。映画『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)でデビューして以来、本広克行監督作品の常連キャストとして知る人ぞ知る存在であった彼が、満を持して連ドラの「主演」を張ることで話題のドラマ『悪党たちは千里を走る』(毎週水曜23時53分〜/)が、1月20日よりスタートした。

 今から5年ほど前、山田孝之主演のドラマ『勇者ヨシヒコと魔王の城』(2011年)で、金髪マッシュルームカットの魔法使い「メレブ」役を怪演し、注目を集めたムロツヨシ。その後、同作の監督である福田雄一作品の常連キャストとなり、個性的な脇役としてドラマに舞台に活躍する一方、内村光良のコント番組『LIFE!』(2013年〜)の出演をきっかけに、バラエティー番組にも登場するようになった彼のイメージは、「ウザいけど、どこか可愛らしい」……そんな感じではなかっただろうか。しかし、今回のドラマで彼が演じるのは、『勇者ヨシヒコ』の「メレブ」役が典型的であったような、コミカルでアクの強いキャラクターではなく、ふとしたことで犯罪に巻き込まれてしまう、ごく普通の人物だ。それだけに、「役者」としての真価が問われる作品になると思われるのだが……まずは、そのストーリーを見ていくことにしよう。

 「ある日突然、自分が悪の道に足を踏み入れたとしたら、それでもまだ俺の声は誰かに届くのだろうか」……そんなムロツヨシのシリアスな独白のもと、巻き戻される時間軸。彼が演じる主人公・高杉は、自身の企画をパクッた上司の態度にブチ切れて、衝動的に会社を辞めてしまったテレビ・ディレクターだ。しかも、以前の企画で高杉が会社に被らせた1000万の借金付きで。しかし、フリーで仕事をしようにも、会社を離れた高杉のことなど、誰も相手にしてくれない。彼の身を案じてくれるのは、後輩のAD園部(山崎育三郎)ただひとり。八方塞がりの現実に直面した高杉は、園部との会話の中で、「ある計画」を思いつく。親が大金持ちで有名な子役・巧(大西利空)の飼い犬を誘拐して、身代金をせしめるのだ。

 そう思いついた矢先、「高杉と昨夜一晩過ごした」と言う謎の女・菜摘子(黒川芽以)が、高杉の家を訪れる。高杉たちの「愛犬誘拐計画」を瞬時に察した彼女は、自身も計画に参加することを表明。というか、彼女は何者なのか? その疑問が解決されぬまま、今度はなぜか子役の巧が、ひとり高杉の家にやって来る。そして言うのだ。「犬よりも僕を誘拐してよ。僕は僕自身の価値を知りたいんだ」。犬を誘拐するならまだしも、子どもの誘拐なんてもってのほか。巧の願いを却下し、家に送り返す高杉だが、そんな彼の元に今度は「ジョン・レノン」と名乗る謎の人物から電話が掛かってくる。「巧を誘拐した」。なぜか高杉や園部、さらには菜摘子のことまで知っている「ジョン・レノン」は、さらに続けて言う。「今から犯人は私ではなく“あなた”です」と。

 初回にして、まるでジェットコースターのように目まぐるしい展開を見せる物語。ムロツヨシ演じる主人公・高杉は、理想を持った熱い男でありながら、その熱さがときに自己中心的で他人を受け入れない偏屈さのようにも見える人物だ。ムロツヨシの十八番であるエクストリームなコメディ調の芝居は影を潜め……とまでは言わないが、その「滑稽さ」が、ある種の「痛さ」に転じているところが、今回の役どころの面白い点だろう。そんな彼がふとした瞬間に見せる、「虚無」と「孤独」の表情。それは確かに観る者を惹きつける何かがある。しかし、それ以上に印象的だったのは、そんな表情の変化も含めた彼の「切り替えの速さ」だろう。コメディからシリアスへと目まぐるしく変わる荒唐無稽なプロットを、持ち前の反射神経とキレのある動きによって乗りこなす、役者・ムロツヨシの真骨頂。

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