劇場発信型の映画祭「未体験ゾーンの映画たち」で注目すべき作品は? 50作品の中からピックアップ

『グッドナイト・マミー』

『グッドナイト・マミー』場面写真 (c)WIEN 2014 ULRICH SEIDL FILM PRODUKTION

 そして3本目はヴェロニカ・フランツ&セヴェリン・フィアラ監督作『グッドナイト・マミー』だ。主人公はいつも一緒の双子の兄弟ルカスとエリアス。彼らは森に囲まれた家の中、2人だけで母親が帰ってくるのを待ち続けている。だがやっとのことで帰ってきた彼女の頭には包帯が巻かれ、血走った2つの瞳だけがルカスたちを見つめる。そして自分たちへ怒りを向けてくる母親に対して、ルカスとエリアスは思う。「彼女は本当にぼくたちのママなの?」。そんな状況の中、親子は日常を取り戻そうとしながら、水面下では双子たちの疑念と“母親”の禍々しさが攻めぎあう。その緊張感が最高潮に達する頃、ドス黒い悪意は凄惨な暴力としてスクリーンに立ち現れることとなる。

 だがその凄惨さとは裏腹に、フランツ監督が向ける眼差しはひどく冷ややかなものだ。彼女は一定の距離感を保ちながら、暴力の光景を観察し続ける。この空気は同じオーストリア出身であるミヒャエル・ハネケやウルリッヒ・ザイドルの作品を思わすものだ。実際、フランツ監督はザイドルの公私に渡るパートナーで、彼の作品で共同脚本・助監督を務めてきたこともある。よって、空間の捉え方が独特な撮影法や、不気味なまでに設えられたモダン建築の人工感など、ザイドル監督の手法と似通った要素が多い。彼らの作品が好きな方にとって、今作は堪らない魅力を持った作品とも言える。

『グッドナイト・マミー』場面写真 (c)WIEN 2014 ULRICH SEIDL FILM PRODUKTION

 しかし、『グッドナイト・マミー』の恐怖の源は、何と言っても双子の存在感だろう。『悪を呼ぶ少年』『戦慄の絆』『悪魔のシスター』など、双子の神秘性を恐怖表現に用いた映画は枚挙に暇がない。今作もその系譜にある作品でありながら、多くは設定頼りの凡作ばかりの中で、いつまでもドス黒い光を放ちながら輝き続けることは約束されている。

 フランツ監督が双子に託すのは切実な不信感だ。自分を育てる母親などまやかしだ。自分の生きている世界などまやかしだ。唯一信じられる互いの絆ですら、まやかしかもしれない恐怖…。絶叫してもどこに届く訳でもなく、誰が信じてくれる訳でもなく、かと言って捨て去ることなど絶対に出来ない、誰もが生きる上で一度は味わったことがあるだろう、この世に存在する全てに対する、決定的な不信感。それがゆっくり、ゆっくりと腐敗し、2人の世界が崩れてゆく様を監督はスクリーンに刻み付ける。今作はハネケやザイドルたちの作品と共にこう呼ばれている。”オーストリアの新しき戦慄"と。

『グッドナイト・マミー』場面写真 (c)WIEN 2014 ULRICH SEIDL FILM PRODUKTION

 この3作に共通するのは、これらが監督にとっての初長編作、もしくは第2長編であることだ。彼らは今後それぞれの国を代表する作家となり、ひいては世界に羽ばたくと断言できるポテンシャルを持ち合わせている。そのほかにも「未体験ゾーンの映画たち2016」では、イギリス人新鋭ホラー監督のデビュー作『死の恋人ニーナ』や、東欧ジョージアの映画作家による作品『デッド・オア・リベンジ』なども公開される。日本ではそうそうお目にかかれない、世界最先端の作品を観る貴重な機会を与えてくれる映画祭こそが、「未体験ゾーンの映画たち」なのだ。ぜひとも映画館へと足を運んでほしい。

■済藤鉄腸
ライター。ネット配信で映画を観るのが好き。MUBIとNetflixで引きこもりが捗る。配信スルー映画・日本では知られていない世界の映画作家たちを紹介するブログ“鉄腸野郎Z-SQUAD!”を書いてます。

■映画祭情報
「未体験ゾーンの映画たち2016」
ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催中
シネ・リーブル梅田にて1月23日(土)より開催
公式サイト:http://aoyama-theater.jp/feature/mitaiken2016

■公開情報
『ディスクローザー』
2月20日(土)より、「未体験ゾーンの映画たち2016」にて上映
監督:マシュー・サヴィエル
脚本:ジョエル・エドガートン
出演:ジョエル・エドガートン、ジェイ・コートニー、トム・ウィルキンソンほか
配給:「ディスクローザー」上映委員会
2013年/オーストラリア・アメリカ/英語/STEREO/カラー/105分/シネスコ/原題:FELONY
(c)2013 Felony Film Holdings Pty Limited, Screen Australia and Screen NSW

『エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略』
1月12日(火)より、「未体験ゾーンの映画たち2016」にて上映
監督:ロニ・エズラ
脚本:トビアス・リンホルム
出演:ピルー・アスベック、ラールス・ミケルセン 、メット・ムンク・プラム、マーティン・グレイス、アリ・アレクサンダー
配給:彩プロ
2015年/デンマーク/デンマーク語、ドイツ語/カラー/93分/英題:April 9th
(c)2015 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

『グッドナイト・マミー』
1月12日(火)より、「未体験ゾーンの映画たち2016」にて上映
監督・脚本:ヴェロニカ・フランツ、セヴェリン・フィアラ
出演:スザンヌ・ウエスト、エリアス・シュワルツ、ルーカス・シュワルツ、ハンス・エッシャー
配給:AMGエンタテインメント
2014年/オーストリア/ドイツ語/カラー/99分/DCP/原題:Goodnight Mommy
(c)WIEN 2014 ULRICH SEIDL FILM PRODUKTION

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