『虎影』西村喜廣監督インタビュー
スプラッターの匠=西村喜廣監督が、“血の量少なめ”映画『虎影』で挑戦したこと
「特撮ならではの良さが、CGの限界を表している」
ーー本格的な殺陣や血の演出があるのに、子供も見られる『虎影』は貴重な映画かもしれないですね。迫力のある殺陣や出演キャラクターのユニークなビジュアルからは特撮への愛を感じました。
西村:特撮モノは子供の頃から大好きです。劇中で使われているアイデアも、いままで観てきた特撮がもとになっています。あと、これは最近知ったことなんですけど、戦隊シリーズや仮面ライダーを手掛けている監督たちが、僕の作品を見てくれているらしいんですよ。例えば、『ヘルドライバー』のカーアクションが、戦隊シリーズの『烈車戦隊トッキュウジャー』で使われたことがあって、話を聞いたら特撮の監督が自分の映画をすべて観てくれていました。自分の作品が形を変えて、今の子供に届いてるのは嬉しいですね。
ーー監督業を行う一方、劇場版『進撃の巨人』(2015)や、来年公開予定の『シン・ゴジラ』の特殊造型プロデューサーを務めています。VFXの技術が発展しているにも関わらず、特撮を使うのはなぜですか?
西村:『進撃の巨人』や『シン・ゴジラ』の制作に携わる中でわかったのは……というか薄々感づいてはいたんですけど、現時点で日本はハリウッドのCGに到底太刀打ちできないなと。それは、技術が劣っているという意味ではなくて、単に予算と人員におけるスケールの違いからです。ざっくりと言うと、日本はハリウッドの1/10の予算で映画を作る必要があって。予算が限られると、当然かけられる時間にも制約がでてきます。むこうは何年もかけて良いCGを作っているかもしれませんが、日本の場合は同等のものを数ヶ月で作ることが求められるので、仮に同じやり方で作ったとしても物理的に追いつかない。限られた時間の中で作るために、着ぐるみやマペットといった特撮の技術が必要になってきます。
ーー監督が考える、特撮ならではの強みとは。
西村:モーションキャプチャーや着ぐるみではできない動きに、マペットで挑戦したのが『進撃の巨人』の超大型巨人でした。モーションキャプチャーを使えばよりリアルに動くCGを作れますが、一方で特撮にしか出せない味もあります。むしろ、CGでは作れない特撮ならではの良さこそが、CGの限界を表しているんじゃないかと。すべてをCGで作ろうとしても、制約があって理想的な動きにならないこともあるんです。特撮の技術で、人間にはできない動きができた時の驚きや、着ぐるみやマペットを使った時にチープに見えないようにする工夫などは、今後、特撮が追求していかなければならないポイントだと思います。
ーー西村監督はインディペンデント(メジャー系配給ではない)映画を多く撮っています。海外や国内で気になるインディペンデント映画の監督はいますか?
西村:『ABC of death』(アルファベットのA〜Zから連想する死をテーマにした短編映画集)の制作に参加したとき、世界各国の若手監督に会いました。その時に『ターボキッド』(2015)を監督したROADKILL SUPERSTARSと話しましたが、彼らは過去の表現を再解釈して新しい作品を生み出していて、素晴らしいセンスだと思いました。あと気付いたのは、インディペンデント映画を撮っている監督は性格が明るいってこと。映画作りに対して素直というか、視聴者へのウケを考えるよりも、自分のやりたいことを全部やっている感じですね。そういう姿勢には、いまも学ぶものは多いなと思います。
(取材・文=泉夏音)
◼︎商品情報
『虎影』
ブルーレイ&DVD 1月6日発売
発売元・販売元:ハピネット
提供:応援団
公式サイト:http://www.torakage.com/
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