ビル・マーレイがクリスマス・ソングを歌う意味ーーアナーキーで偏屈な名優のキャリアを紐解く

  自身が気に入っている作品の一つとして挙げている『恋はデジャ・ブ』(1993)の全米大ヒットで見事に第一線に返り咲いたマーレイに、新しい時代の追い風が吹き始める。幼いころからマーレイ作品に親しんできた、才能ある若きフィルムメイカーたちがマーレイを求めてきたのだ。中でも全米の各賞に大量ノミネートされるという快挙を成し遂げた『天才マックスの世界』(1998)で起用して以来、全作品に出演させることに成功しているウェス・アンダーソンや、日本でロケーションを敢行した『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)のソフィア・コッポラとのコラボレーションは、マネージメントを自分で管理し、電話番号すら他人に教えず、どこにいるのか見当もつかないという程偏屈で知られるマーレイの心境に微妙な化学変化をひき起こした。だからといって、マーレイ自身が丸くなったわけではない。続編に出演することを拒絶するほどこじれた『チャーリーズ・エンジェル』でのルーシー・リューとの確執や、『ゴーストバスターズ3』の脚本に難癖をつけ続けた末に、企画の進捗がみられない間に主要キャストでもあった親友ハロルド・ライミスは病に倒れた。

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  全てを出し切ったというジム・ジャームッシュ監督『ブロークン・フラワーズ』(2005)で、俳優業からの引退も考えたが、ウェス・アンダーソンやソフィア・コッポラ達はそんな偏屈老人の引退を引き止め続けた。無気力で自堕落なロクデナシの老人と孤独な少年との交流(まるで『ミートボール』の再来のような関係だ)を描いた『ヴィンセントが教えてくれたこと』(2014)ではゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネートされ、テレビのミニシリーズ『Olive Kitteridge』ではエミー賞の助演男優賞を見事に獲得(が、しかし授賞式当日は息子の結婚式に出席し、ノリノリで会場を盛り上げていたらしい)した。

 『ビル・マーレイ・クリスマス』は監督にソフィア・コッポラを迎え、昨年秋の企画発表から1年がかりでついに完成した。『SNL』時代の名キャラクター、ラウンジ歌手ニックの如くクリスマス・ソングを熱唱するマーレイの姿は、長年のファンにとってはこれ以上ないクリスマス・プレゼントになるだろう。

 年末にもう一つ嬉しいサプライズがあった。GQ誌のサイトに『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でポー・ダメロンを演じたオスカー・アイザックがアコースティック・ギターで、「スター・ウォーズ」のテーマを歌う動画がアップロードされていた。その歌詞はラウンジ歌手ニックが熱唱していたあの歌だった…アナーキーで偏屈なクソジジィ。それでもビル・マーレイはみんなに愛されている。

(文=鶴巻忠弘)

◼︎公開情報
『ビル・マーレイ・クリスマス』
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