女性刑務所の日常はヘヴィーなだけじゃない? 『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』が共感を呼ぶ理由

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』評

 現在、Netflixでシーズン3まで配信中の『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』は、パイパー・カーマンのノンフィクション小説『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女性刑務所での日々』をドラマ化した作品だ。女性刑務所を舞台に、収容者たちのさまざまな物語を浮き彫りにしていく。主人公はテイラー・シリング演じるパイパー・チャップマンだが、他にも強烈なキャラクターが多数登場し、ドラマを彩っている。パイパーを中心としたドラマというよりは、パイパーも含めた収容者たちの群像劇と言ったほうがしっくりくる。

 そんな収容者たちの中でも一際強烈なのが、ウゾ・アドゥバ演じるスザンヌだ。『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の魅力は、軽快なテンポで繰りひろげられるコミカルな会話と、その会話に詩的な表現がよく用いられるところだが、こうした魅力の象徴と言えるのがスザンヌである。たとえば、シーズン1のエピソード3では、パイパーにこのような詩をプレゼントしている。

「君に会うまで 太陽は黄色いブドウだった でも今は 空の炎に見える なぜって? それは君が私の中に火を灯したから」(シーズン1/エピソード4の字幕より抜粋)

 こうした言葉をスザンヌは、感情豊かに紡いでくれる。情緒不安定な一面も見せるが、それもスザンヌというキャラクターの人間性をより魅力的にしている。

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 また、ラヴァーン・コックス演じるソフィアも抜群の存在感を放っている。息子を持つソフィアは、性転換したトランスジェンダー女性という設定だが、実はラヴァーン・コックス自身もそうだ。日本では知名度が高くないかもしれないが、2014年には、トランスジェンダー女性として初めてタイム誌の表紙を飾るなどして、大きな注目を集めている。一般的にコメディーとされる『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』だが、LGBT、差別、ドラッグ、貧困といったテーマも盛り込んでおり、観ていて考えさせられるドラマでもある。こうした側面を象徴するのは、シーズン3のエピソード10。ソフィアが女子トイレでメイクをしていると、収容者のひとりがソフィアにイチャモンをつけてくる。すると口論になり、相手はソフィアにこんな言葉を投げつける。

「私は母親だよ 怒りに満ちた“本物”の母親 分からないよね あんたは作りもんだから」(シーズン3/エピソード10の字幕より抜粋)

 性転換したトランスジェンダー女性に、「あんたは作りもんだから」と言い放つのは、ヘイトクライムへと繋がる。この一件以降、ソフィアは頻繁に暴行を受けるようになってしまうのだ。そして、シーズン3のエピソード12でソフィアは、「お前の身を守るため」という口実で、懲罰房に入れられてしまう。このような処置は、先に襲われたソフィアからすれば納得がいかないだろう。実際ソフィアも、「バカげている そうでしょ?」と、看守たちに問いかける。そしてこの問いかけは、看守たちだけでなく、ドラマを観ている視聴者に対するものでもあるように聞こえるのだ。

 女性刑務所を舞台にした作品といえば、1983年の『チェーンヒート』がある。この作品は、『エクソシスト』で悪魔に取り憑かれた少女リーガン役を演じたリンダ・ブレアが主演の映画だ。刑務所内で横行する熾烈な派閥争い、レイプ、売春などの問題に、女囚たちが団結して立ち向かうという内容で、数多くのバイオレンスやエロが表現されており、いま観てもかなり刺激的な作品となっている。当時のポスターやチラシで掲げられた、「噴きあがる血と汗と怨み! 暴走する女囚の群れ!」というキャッチ・フレーズもインパクトにあふれている。

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