『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』最速ロングレビュー
『スター・ウォーズ』最大のライバル!? 『妖怪ウォッチ』新作の仕上がりをチェックだニャン!
任天堂DSのゲームを中心とするメディアミックス、妖怪メダルをはじめとする秀逸なマーチャンダイズ戦略、個々のキャラクターの斬新さ、親世代を巻き込む元ネタの宝庫、オープニング曲やエンディング曲の話題性。『妖怪ウォッチ』ブームの要因として、これまで多くのことが語られてきたが、「物語」として最も大胆だったのは、子供向けのTVアニメに「異なる時間軸と場所」を平行して描く群像劇の手法を導入したことにあった。普段からTVシリーズに接していない人の中は、「ケータとジバニャン」をまるで「のび太とドラえもん」のような物語の中心にある強固な関係性と捉えている人もいるかもしれないが、実はそうした旧来の子供向けマンガやアニメとはまったく異なるモダンな関係性と物語構造を持った作品なのだ。そう考えると、『ドラえもん』映画版のような拡大主義的発想で作られた前作ではなく、今作『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』の手法こそが『妖怪ウォッチ』にとっての王道であることがわかる。
さらに、今回の『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』では映画版ならではの新しい趣向が凝らされている。印象的なのは、最初の4つの短編のうち3つまでもが「母と子供」を描いた、ちょっとウルっとさせられる物語であること。前作で「子供の付き添いで映画館に来る親」(自分のことだ)が観客に多かったことを踏まえてのことだろうが、これは大正解なのではないか。ママ友同士が「このあいだ新しい『妖怪ウォッチ』の映画を子供と観に行ったんだけど、超よかった!」と会話を交わしているところが今から目に浮かぶ。一方で、『妖怪ウォッチ』の世界を特徴づけていたもう一つのモダン性(厳密に言うとポストモダン性だが)であるところの、「やりすぎ」感に満ちたパロディの乱発は今回かなり控えめ。これも、映画という「作品として残る」メディアの特性に合わせた軌道修正だろう。
総じて、ブームの真っ只中で慌てて作った感が端々から感じられた前作と比べて、今作は作品としてしっかり地に足のついた仕上がりとなっている。あっという間に日本中の子供たちに伝染した、今年の春あたりまでの熱狂的な盛り上がりは去ったものの、このまま年末恒例の人気作品として定着していく道筋が今作によってはっきりと見えてきた。試写で一回観たにもかかわず、今回も子供を連れてまた映画館に行くことになる親の立場からのワガママを言うなら、いつの日か、今作で顕在化した群像劇としての特性を活かして、例えばロバート・アルトマン作品のような、細部の確認のために何度も観たくなる群像劇特有の物語の仕掛けやカタルシスを味わわせてくれたら言うことはないのだが。ゲームやアニメに限らず、日本のあらゆるコンテンツ・ビジネスの最先端にして最高峰の頭脳を持つレベル・ファイブがその気になれば、それも可能だと思うのだ。
■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)、2016年1月16日発売。Twitter
■公開情報
『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』
12月19日(土)全国東宝系にてロードショー
アニメーション制作:オー・エル・エム
製作:映画『妖怪ウォッチ』プロジェクト2015
配給:東宝
(c)LEVEL-5/映画『妖怪ウォッチ』プロジェクト 2015
公式サイト:http://www.eiga-yokai.jp/