女優・原節子が我々に残したものーー若手映画ライターが見た、色褪せないその魅力
『東京物語』を筆頭に、『青い山脈』や『山の音』など彼女の代表作がある中で、今回の訃報を受けて筆者が真っ先に再生した映画は吉村公三郎の『安城家の舞踏會』であった。華族制度の崩壊とともに没落していく一家の姿を映し出したその映画で、安城家の次女・敦子を演じる彼女は、当時26歳か27歳であろうか、今の筆者と同じ年齢のはずだ。そこに映し出される、凛々しくも気高いその姿は、もう彼女がこの世にいないとわかっていても、初めて観た数年前と決して印象が変わることはない。70年近くも前に作られ、関わったスタッフやキャストのほとんどがこの世を去っていても、色褪せることのない力強さと美しさが、当時の日本映画には確実にあったのだ。それが、我々の愛してやまない「映画」というものの魅力であると改めて認識することになった。
原節子という女優が銀幕を離れて半世紀以上、会田昌江というひとりの女性が旅立って2ヶ月以上経ち、ようやく我々は原節子という女優がもうこの世にいないのだと、実感することになった。向こうで小津監督や、あの頃の映画界を輝かせた皆さんにお会いできたのでしょうか。とても秋日和とは呼べない季節になってしまいましたが、一度鎌倉の街を散策し、円覚寺に眠る小津監督の墓前にお伺いしたく思います。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter