「クリエイターはより自由に表現できる」西田宗千佳が語る、Netflixと配信コンテンツの可能性

Netflixのオリジナル作品はなぜ面白い?

 世界最大級の映像ストリーミング配信サービス・Netflixが、2015年9月1日に日本でのサービスを開始したことを受けて、その革新性を綿密な取材とデータ検証によって解説した書籍『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』が10月16日に発売された。リアルサウンド映画部ではNetflixのサービス開始以来、オリジナルコンテンツである『ビースト・オブ・ノー・ネーション』や『ジェシカ・ジョーンズ』などの制作者や出演者に取材を行い、その作品のクオリティの高さに迫ってきた。なぜNetflixは、優れた映像作品を次々に生み出すことができるのか。本書の著者である西田宗千佳氏に、Netflixを取り巻く状況と、その制作システムの特異性について話を聞いた。

「日本ではアニメのユーザーが市場を牽引」

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西田宗千佳氏

——本書はちょうど、Netflixの日本サービス開始と近いタイミングで出版されています。この時期にサービス開始するというのは、予測していましたか?

西田:はい。去年の始め頃には、2015年の後半にはNetflixが必ず日本に参入するということが分かっていました。僕がNetflixの取材をはじめたのは、2007~2008年のことで、アメリカからサービスをスタートして、カナダに進出した頃だったので、海外展開は十分に予測できましたね。日本は、人口や映像の商品のマーケットとして、国単位では世界で二番目に大きいので、いつか来るのはまず間違いありません。ただ、だからこそ彼らも慎重になっているので、ある程度の状況がわかってから、日本に来ると予測していました。Huluは2011年に日本進出したので、その状況も判断材料になったのでしょう。また、大きかったのはdビデオ(現:dTV)の存在です。契約数が500万を超えて、ビデオデマンドを観る人の数が一定数あって、ちゃんと収益化できるとわかったのが2013年の後半辺りだったんです。映画会社やドラマ制作会社、テレビ局も、この辺りから意識が変わってきました。結局のところ、日本のコンテンツプロバイダーが日本の市場に向けて、ストリーミングでコンテンツをきちんと出したい、と考えられる状況を待っていたのが、このタイミングになった一番の理由だと思います。

——実際にNetflixに並んでいるコンテンツを見て、日本の権利者の意識の変化は感じられますか。

西田:正直なところ、もう少し多くの映画コンテンツが並ぶと思っていました。海外でNetflixが置かれている状況も変わってきて、映画よりもドラマが中心になってきたこともあり、映画の数は想像よりも少ない印象です。しかし、日本向けのコンテンツーー日本のテレビ局であるとか日本の映画会社が作ったコンテンツに関しては、かなり増えていますね。AmazonやdTV、あるいはHuluにおいても、そうした傾向が見られます。

——Netflixのサービス開始以降、日本におけるストリーミングサービスのユーザー数はどう推移しているのですか。

西田:ブームになって誰も彼もが飛びつく、という状況ではないですね。日本の場合、無料の地上波が圧倒的に強くて、有料サービスを使用するのは全体の5パーセントくらいしかいません。これは習慣の問題も大きいです。そのため、どこか一社が勝っているという状況でもない。ただ、スマートフォンやタブレットやPCが当たり前に普及しているので、いわゆる無料体験の率は非常に高いです。また、どのサービスを使っているかアンケートを取ると、NetflixやAmazon、HuluやdTVはトップの方に来るので、それらのサービスが一定の支持を集めているというのは間違いないと思います。

——本書で西田さんは、その中でもアニメがよく視聴されていると指摘しています。

西田:アニメ作品の支持は非常に厚いです。特に、ドコモとKADOKAWAが組んで作ったdアニメストアには、200万人以上の加入者がいます。また、アクティブユーザー数も極めて高い。これはつまり、コンテンツの中身が分かったうえで、観たい作品があるから加入しているユーザーが多いということです。アニメのユーザーはコンテンツの価値を認めて、きちんとお金を払って作品を楽しもうという意識が高く、実はAV機器全般においても、消費を牽引しています。アニメファンは高画質のテレビを購入しますし、ハイレゾ配信でもアニメソングが優勢です。逆に言えば、アニメに興味のないユーザーの場合、新たなサービスを使ってもらうにはモードチェンジが必要で、たとえばレンタルビデオを定期的に借りる習慣のある方が、ストリーミングに乗り換えるなどしないと、定着しないと思います。これにはまだしばらく時間がかかるでしょう。

——その点では、アメリカは事情が異なりますね。

西田:そもそも、アメリカのテレビやケーブルテレビが消費者にとって満足度が高いサービスではなかったのが、ストリーミング需要が高まった要因のひとつでしょう。地上波の放送はあまり面白くなく、だからケーブルテレビに加入するものの、そのほとんどは再放送チャンネルなんです。それに対してみんな、ネット回線込みで月に80~100ドル近いお金を払っていた。だからこそ、ストリーミングサービスが出たときに、いわゆる「ケーブルカッター」(契約をやめる人)が増えたんです。ただし、そうした人々もトータルで1500万人ほどで、国民全体が一気にケーブルテレビをやめたわけではない。つまり、ストリーミングサービスの開始によって、ケーブルテレビの位置づけが変わってきたというのが、アメリカの状況なんだと思います。

——そうした状況の中で、Netflixはかなり大きなシェアを占めている背景とは。

西田:単純にアメリカの場合、スタートダッシュとしてNetflixのサービスしかなかったのが、勝因のひとつだと考えています。また、アメリカのHuluはどちらかというとテレビ番組の見逃しを防ぐサービスに近く、サービスの質が違っていたんです。だから競合にはなりにくかった。もうひとつ、レンタルビデオのビジネスモデルが崩壊するタイミングと、Netflixの勃興のタイミングが合っていたというのも大きい。日本の場合、特に都市部に関しては、たとえば駅から帰る途中でTSUTAYAに寄ってディスクを借りるということが十分にできる国土ですけれど、アメリカの場合は広いので、それは無理なんですね。だから、レンタルビデオというビジネスモデルが、VHSからDVDに移行して、郵送型での利用率が増えると同時に、レンタルそのものの崩壊も始まっていたということが言えると思います。Netflixが始めた配信という形はアメリカの国土にも合っていて、郵送型レンタルからモードチェンジするには打ってつけでした。だから一気に浸透し、シェアを獲得できたのだと分析しています。

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