大野いと、ツンデレ演技をどうこなすか? 『馬子先輩の言う通り』先輩キャラに期待すること

 肝心のドラマ自体を競馬ファンの視点から観てみると、初心者向けの知識紹介をしながらも、少しコアな競馬ジョークも登場させ、さらに第1話と第2話でフィーチャーした夏の小倉記念のアズマシャトルといい、今回の鍵になったスティーグリッツといい、人気の中心にいる馬を選ばずに、なかなかのギャンブルをしてくるあたり興味深く思える。他の競馬番組で取り上げられるようなビギナー臭を感じさせないだけに、競馬に少しでも関心がある人間ならば誰でも観賞に耐えうる作品となっている。

 そして何より興味深く見えるのは、大野いとの使い方である。実年齢の割に落ち着いて見えるにもかかわらず、意外にもこれまで彼女が演じてきた役は、実年齢とほぼ変わらない役か、ハッキリと年がわからない役ばかりであった。今回は94年の菊花賞を現地で観戦していたと劇中で話しているように(彼女自身は95年生まれ)、確実に実年齢より上の設定であり、しかもタイトルロールでもある通りの“先輩キャラ”だ。

 “先輩キャラ”の役は昨年の1月に放送された『巫女に恋して』で務めているとはいえ、今回の馬子という役どころは、簡単そうに見えて非常に難しい役であろう。前回の記事でも書いたように、大きな動作と表情によって喜劇を体現できる彼女にとって、喜劇というフィールドは同じであっても、今回は満遍なく喜劇演技を要求されているのではなく、ある種のツンデレ演技が求められているのである。会社で真面目に仕事をしているときなどの人間に対する「ツン」と、競馬に熱中しているときに出現させる馬に対しての「デレ」とのギャップによって笑いを引き出さなくてはならず、なかなかハードルが高い。

 もっとも、競馬のレース実況を観ながら北海道弁でテレビに語りかける「デレ」の姿は、『高校デビュー』でのヒロイン・長島晴菜役の頃から継続して発揮される、画面全体の緊張感を一瞬で緩和させる彼女の演技の持ち味が活かされている。一方で、松島庄汰演じる岡部豊に向けられた、人間に興味のなさそうな冷たい口調で構築される「ツン」の演技には、まだ彼女の課題として残る台詞読みに大きな比重が寄せられているように見える。

 今回と同様に喜劇の中での乾いた演技をしていた一昨年の『山田くんと7人の魔女』の頃と比べると、確実に表情の硬さはなくなってきているだけに、視線の乾きは台詞をかろうじてカバーできるだけのものへと成長していると見える。おそらく彼女の自然体の表情とは対照的である、この乾いた演技を突き詰めることによって、今回のドラマにおける喜劇としての面白さが増していくのであろう。ともあれ、これから年末まで毎週彼女の喜劇が観られるのだから、それだけで満足感が高い。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

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